第1回企業価値発展大賞 ノミネート法人 – 企業価値協会 Skip to content

第1回企業価値発展大賞2021 ノミネート法人

石坂産業株式会社

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 石坂産業の2021年8月決算は売上高64億年、売上総利益は36億円、営業利益10億円だった。2020年8月決算は売上高61億円、売上総利益が26億円、営業利益10億円。ともに微増である。2018年8月決算の売上57億円、売上総利益21億円に比べると増加しており、コロナが2020年1月から始まったことを考えると、善戦しているといえるだろう。2022年8月期はまだ予想できないものの横這いということだった。この間、売上増をはかるより、利益を確保することを重視しているという。

2. 具体的な活動内容

「本業、里山、研修教育」
 2020年12月に企業表彰制度「日本経営品質賞」で中小企業部門賞を受賞した。日本生産性本部が「卓越した経営の仕組み」を表彰するもの。これは本業の建設混合廃棄物の不燃物の廃棄物混じり土の分別を、独自に技術開発した仕組みで、98%の減量化、再資源化を行い、ゴミの出ない社会を目指していること。加えて、工場敷地周辺の里山公園化などにより、環境教育、地域貢献を行っていることが評価された。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

「所沢ダイオキシン問題からの変身、飛躍」
 石坂産業は1999年のテレビ局による「所沢ダイオキシン誤報事件」で大きな転換点を迎えた。当時は石坂産業の焼却炉が諸悪の根源とみられ、周囲からも非難攻撃を浴びた。このため、産業廃棄物の焼却処分を一切廃止、のちに特許となる石膏ボードリサイクル処理システムを開発し、木材チッププラントに粉砕装置を入れ、建設混合廃棄物の分別分級、リサイクル工場として再出発した。2002年には石坂典子氏が社長に就任している。2021年には廃棄物選別ロボットを共同研究で開発しラインに導入するなど完全自動化も目指している。
 2012年より行っている工場周辺の里山を保全再生する活動も重要な経営の柱だ。工場の周囲17万8千㎡のうち80%を緑地帯と環境対策施設として管理している。「三富今昔村」として施設全体を一般公開している。この場で「環境教育」による地域貢献をするだけでなく、研修事業を通じて他産業と提携し、新たなブランド価値を創造することを推進している。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

「再エネ電力100%」
 里山の「三富今昔村」は2020年9月から21年8月まで団体見学1,771名 一般来場者52,343名で、2020年度くぬぎの森環境塾環境教育では21の小中高大学から合計927名の児童、生徒、学生が学んだという。
 また本業のプラントと「三富今昔村」合わせて、すべて再生可能エネルギーの電力とすることを達成し、プレスリリースも行った。これによりCO2排出量約4000トンを削減できた。
 研修事業では小田急不動産に研修プログラムを提供するなど、社外への発展がみられた。
 新規温浴事業クアオルトに向けて、21年5月に温泉掘削に成功、23年秋施設オープンに向けてスタートした。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 石坂産業経営陣は、本業である産業廃棄物分別処理、リサイクルだけではなく、「発生した廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを生み出さないように社会の仕組みを変えていく」のが目標だ。そこで、「環境ビジネスのプロフェッショナルとして、廃棄物の減量化・リサイクル化率 100%、廃棄物ゼロを目指し、ゴミが出ない社会を推進しています。そのために、オープンイノベーションを宣言し、様々な企業や行政・研究機関と連携し、IoT・AI の先端技術を活用した選別機器を共同研究・開発し研導入を図り、持続可能で先進的なスマートファクトリーを創り出してまいります」として、工場内のデジタル化、ロボット化などを推進していくという。
 三富今昔村などの「体験型」環境教育では、海外の環境教育関連事業者との連携を図り、サステナブルツアーや環境教育・学習リーダー養成プログラム等を新たに開発したいという。
 2020 年に ISO マネジメントシステムの基本方針を「自然と美しく生きる」に変更し、人と自然と技術が共生する循環型社会(サーキュラーエコノミー)の実現に向け「ゼロ・ウェイスト」を掲げ、次の暮らしを創ることへの意欲と決意を新たにした。卓越した経営を目指すため、7 種統合 ISO と日本経営品質賞のアセスメント基準書を融合した経営システムを再デザインし、レジリエンスな組織への変革に努めている。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 特にインナーブランディングを強化するため3つの重点テーマを取り組んでいる。
 一つは「パートナーシップ構築の基礎となるインナーブランディングの実施」。社員一人ひとりに会社の経営理念をより深く理解し業務に反映させることを念頭にし、様々な教育プログラムを提供。個人と部署と会社の三つの目標を一致させる、個々の職務上の役割と責任を明確に示し、目指すキャリアアップを示す等のプログラムだ。また、指名研修も開催し、会社の目指す「理想的な姿」実現に向け、各部署が 1 年後の変化を遂げるように「あるべき姿」と個人の達成目標、部署の達成目標を設定するよう促している。人財開発に係る投資金額は、売上高の約3%で 25,000 千円、一人当たり 150 千円。
 二つめは、「安全第一と健康経営の強化」だ。働き方改革は 安心・安全で働きやすい環境をつくるために、有給休暇の積極的取得、食生活の改善、受動喫煙対策など社員の健康管理、健康づくりのために職場環境の整備・改善に努めている。また NEC・インテルと IoT・AIを使った技術開発の業務提携を締結し、煩雑な作業や危険な作業をロボットに任せ、本来人間でしかできない仕事に特化する未来型の先進工場を目指している。
 三つめは、「循環型社会の実現に向けた、社員一人ひとりの技術のレベルアップ」。オープンイノベーションを宣言し、様々な企業・団体と共同で先進的な技術の研究開発に取組んでいるが、そこには若い社員を参画させている。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

「デジタル化、ロボット化、里山整備推進、温浴、再エネ化」
 社会の誤解により、本業転換を図った。このため、広報への強い意識は、20年間続いており、社長を先頭にした講演や取材を受けるなどのトップ広報、女性管理職比率50%など会社全体をブランド化し、社会への発信を心がけている。
 本業では、産業廃棄物処理で、焼却をやめ、分別、リサイクル化を図った。デジタル化、ロボット化を大手メーカーと提携して、ブランドアップにつなげている。
 工場周辺に里山再生の公園を作り、それだけでは終わらず、オーガニックファームやハーブ園を作り、一般に公開し、この里山を舞台に環境教育を行っている。また温浴施設も計画し、掘削に成功、2023年オープンを目指している。このすべてを企業全体のブランドアップへ結び付け、さらに発展を心がけている。
 2021年には経団連加盟の超大手企業が受賞するケースが多い経済広報センターの企業広報経営者賞を非上場企業としては極めて少ないケースとして受賞している。

第1回企業価値発展大賞 ノミネート法人

株式会社インフィニ

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 株式会社インフィニは現在の代表取締役社長である佐竹悦子氏によって2010年2月に設立された広義の意味で結婚相談所である。”広義”と記述したのは婚姻のパートナーを紹介することにとどまらず、対象の絞り込み、専任カウンセラーの充実、成婚のための研修(セミナー)など会員の幅広い支援を実施しているからである。この事業分野も新型コロナウイルスによる感染症の影響を受けて、成果が下がっているところがあるが、同社も深刻な影響を受ける恐れがあった。この事業の契機となったのは現代表が、起業前の10年におよぶ結婚カウンセラーとしての経験から、社会的にはパートナーを得られるに十分なバックグラウンドがあるにも関わらず成婚に至らないのは、ちょっとした部分、たとえばマナーとか話し方とかファッションなどに配慮が届いていないことによるのでは、と実感したことによる。これを会員にカウンセリングすることで成婚に結び付けようとするビジネスのため、新型コロナウイルスの感染拡大によって面談が制限されることは大きなマイナス要因となるおそれがあった。

2. 具体的な活動内容

 インフィニの結婚相談所としての特徴は会員の対象を最も成婚の需要の多い20代を取り込まず、「30代、40代の高学歴、家庭環境に恵まれた層」とした点にある。パートナーを見つけられるかどうかは社会的な条件が大きな要素だが、それにプラスする何かが欠けていると成婚が遅くなる現実に着目した。
このため「青山結婚予備校」を設立し会員同士の紹介だけでなくセミナーを実施して環境整備を図ってきた。こうした方式だけに新型コロナウイルスの影響を直接的に受ける可能性があったが、「オンライン面談」の思い切った導入で事業環境の悪化に立ち向かった。全くの面識のない人同士を画像によって紹介することにはいくつかの課題があった。
まず、比較的若い世代はZOOMを用いてのオンライン面談自体には大きな心理的な抵抗はないものの、否定的な会員もいるしパソコン、スマートフォンなど機器の操作に不慣れな人たちもいる。また会員への周知の以前に専任カウンセラーの教育が重要な課題となった。ベテランのカウンセラーは結婚紹介にとって非常に重要だが、オンラインには不慣れな方たちもいる。これらに対し機器のセッティングからZOOMの操作方法などを徹底的に教育した。
とくに重要なのは会員に対してオンライン操作の手順などを伝えるノウハウを身に着けさせることだった。また会員に対しては従来の一般的な成婚に至るマナーなどの講習だけでなく、ZOOMの映りがよくなるような化粧方法、さらにはZOOMで顔がきれいに見える照明器具”女優ライト”を紹介するなどのサービスを提供した。
 社内体制としてはリモートワークを導入し、リモートワーク社員3人、通勤型社員4人、管理職3人のシフトとした。
 ただここで付言すればすべての会員がオンライン面談となったわけではない。要望があれば東京・青山(住所表示は赤坂だが、立地は地下鉄、青山一丁目駅の至近)の本社面談施設で消毒、アクリル板による遮蔽といった感染予防対策を施したうえで、対応している。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 活動の目的は会員同士が直接的な接触を避けながら、しかも初対面の人同士の相互理解を図ることにある。この着想を得られたのは海外会員向けに無料通信アプリであるSkype(スカイプ)の実績があったから、という。前述したように同社の会員対象は30代、40代の高学歴層で、あえて「ハイソサイティ」を前面に打ち出している。学歴も具体的に国立トップ大学、私立トップ大学を掲げ、職業も医師、弁護士といった社会的なステータスの高い層を訴求している。このため海外メディアのよる紹介によって海外からの問い合わせのほか、日本人でも海外駐在員からの要望もあってSkypeの利用実績があったことが幸いしたという。
また「青山結婚予備校」を設立しセミナーを実施していることは先述したが、ここでもオンラインを採用している。セミナーは男性と女性にコースが分かれており、それぞれ12コースある。男女でコース内容が違うことについて、「なにか足りないものを補うのがこのセミナーの趣旨。男女ではその点がかなり違うため」と説明している。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 オンラインの導入によって売上高は前年比108%を達成した。経常利益も前年比では400%となった。この結果、コロナ禍にもかかわらず安定的な財務基盤を維持することとなった。経営の基幹となるお見合い件数は3,454件と前年度比110%を達成し、これはオンライン導入の成果と同社は判断している。また成婚件数も約15%伸長した。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 同社の経営の基幹とするのが「成婚至上主義」で、社会的に好条件にもかかわらず30代、40代で独身の層に焦点を合わせた点にある。この契機の一つとなっているのが佐竹社長の経験。佐竹家は江戸期以前から続く「佐竹家」(旧久保田藩藩主)の家系で周囲には旧華族の関係者が多かったことだという。社会的な条件の良さがパートナー選びを逆に難しくしているケースも散見されるという。また女性の側からも特定の大学を指定するようなケースもあり、これらに対応するには「ハイソ」を前面に出す結婚相談所が必要との強い意志を有している。このためにも東京でも一等地のイメージがある青山に本社を立地している。
 またオンラインを導入したことによる思わぬ成果にも注目している。会員同士の面談では男性側が、例えばコーヒー代を負担するとか面談の場所までの交通費に対して配慮するとかの雑事があったが、リモートによってこれらの負担がなくなり、従来よりも気軽に面談できると評価されたことも自信の深める要因となっている。婚姻の成立に寄与していくことは現代社会にとって重要性は増しこそすれ減少することはない、との思いだ。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 注力したのは専任カウンセラーのオンライン研修。自身がZOOMを扱えるだけでなく、ZOOMの操作方法を会員に伝える技能を持つことが求められるからだ。もう一つがZOOMを使わない会員のための配慮。本社の面談スペースの工夫のほかアクリル板を設備し、感染対策に十分な配慮をしている店舗を紹介するといった本来の結婚相談からは踏み込んだ領域にまで手掛けたことが挙げられる。なお本社の面談スペースは明るく、上品なインテリアに囲まれ”ブライダル”のイメージそのままの工夫がなされている。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 オンラインによるリモート面談は会員間の遠距離における成婚の道を開いている。これまでも大学におけるセミナーにとどまらず地方自治体との連携による地方での婚活推進も手掛けているが、オンラインの導入によって広域化が進むことを構想している。具体的には海外分野の開拓を構想している。海外メディアからの取材も入り、国内メディアの関心の高さも下支えとなって、国際化を目標の一つに掲げている。
 またオンラインとは直接関係しないがシングルマザーを対象として会費の低減制度を設けるといったビジネスモデルも投入、今後とも社会貢献も図っていくことにしている。

エレファントジャパン株式会社

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

エレファントジャパンは1975年の創業以来、顧客の工場内の床や壁にたまったり、こびりついたりした粉塵やゴミ、汚れを取り除き、工場の生産環境をクリーンにする業務を手掛けている。当初は社員がスコップなどを使った手作業ですべての業務を進めていたが、1990年に大分県内では初めて大型の吸引マシンを導入し、工場内の清掃作業の機械化に乗り出した。
 吸引マシンの導入以来、30年にわたり、様々な改善を続けてきた。その結果、30年前には手作業で約1カ月かかった定期メンテナンス時の清掃作業を、吸引マシンの使用で8日間に短縮したという。この間、吸引ホースの先に取り付けるアタッチメント(掃除機のアタッチメントにあたる)を開発したり、現場での吸引マシンの操作方法を工夫したりして、少しずつ改善活動を積み上げてきた。
 2020年ごろの清掃作業は、30年前に比べると格段に作業の効率アップや作業員の負担軽減が進んではいたが、改善余地も残っていた。それまでの吸引作業には事前の準備が必要だった。油汚れには「洗い油」を散布し、廃液には水を散布し、汚れを薄く溶かし、吸引しやすくしなければならなかったのだ。
そのため吸引作業の準備のための人員や時間が必要だった。また散布した油や水などが飛散するので、吸引回収後に床や壁をきれいに仕上げる作業も必要だった。
 この油や水などを散布する事前準備の作業を改善すると、さらなる作業効率のアップや作業員の負担軽減が実現し、顧客にも工場の稼働率アップとコスト軽減という価値を提供できると同社は考えていた。

2. 具体的な活動内容

2020年以降の活動として特筆できるのは2021年12月に特許を取得したアタッチメントの開発である(特許出願は2020年12月。写真では緑印のアタッチメント)。このアタッチメントは吸引作業と同時に洗い油や水などを噴出することができるものだ。新しいアタッチメントを使うと、製鉄ダスト(粉塵)を吸引するための事前準備の工程が削減でき、作業効率が高まった。またアタッチメントの長さを従来品の半分の約30㎝へと短くしたため、狭い場所(側溝、地下ピットなど)での作業が可能になった。

*社員が手作りしたアタッチメントの数々。緑印が特許を取得。
*社員が手作りしたアタッチメントの数々。緑印が特許を取得。
*アタッチメントを使った作業の様子
*アタッチメントを使った作業の様子

 アタッチメントの開発はこれまで30年の間、現場の作業員が中心となって取り組んできた。現場の作業員の中に溶接技術を持つ者がいたため、顧客の要望を聞きながらアタッチメントを自作し、試行錯誤を続けた。吸引作業は除去する液体、粉体、固体などによって異なり、作業現場の広さ、構造によっても細かい工夫が必要である。そうした多様な現場のニーズに合わせて、アタッチメントが開発されてきたのだ。
 この間、30種類ほどのアタッチメントを開発し、そのうち10種類ほどが今も成果を上げている。特許を取得したのは2021年12月が初めてである。
 また2020年には高圧洗浄車を導入し、これまで手が届かなったスペースの汚れの除去や仕上げの質向上、作業時間の短縮を実現させた。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 エレファントジャパンはミッションとして①常にお客様のご期待にお応えすること②循環型社会への橋渡し役として貢献することを掲げている。このミッションを実現するために業界に先駆けて30年前に吸引マシンを導入し、2010年には国内最大級の吸引マシン(風量140㎥/分)を導入した。新鋭設備の導入によって工場のメンテナンス作業の効率化を進め、顧客の工場の稼働率向上をサポートしてきた。また清掃作業の改善活動は、再利用できる油分の回収率を向上させ、循環型社会の実現に向けて貢献する活動であり、現在注目されているカーボン・ニュートラル(CO2排出量の実質ゼロ)にも貢献できるものである。
 2020年以降の活動も同社のミッションの実現に向けた活動だ。ミッションを実現するために必要なことは社員が一丸となって努力できるかどうかが鍵を握っている。
 なぜなら新型の機械設備を入れるだけでは顧客の期待に応えることはできないからだ。例えば日本最大の吸引マシン(風量140㎥/分)を使いこなすには作業員の経験知が必要だという。強力な吸引マシンのホースは通常の吸引マシンに比べ上下左右に大きく暴れる。その操作には現場での改善活動を通じた経験知の蓄積が大切なのだ。また同社が長年続けてきた多様な作業現場に応じたアタッチメント開発がなければ、そのミッションの実現は不可能である。
 エレファントジャパン代表取締役の高橋枝見さんは「こうした30年にわたるお客様と現場の作業員との協働作業から生まれた経験知は同業他社にはないものだ」と言う。これまでは現場で働く作業員の努力は目に見えない形で蓄積されきたが、2020年以降は現場の経験知を「特許」という形に「見えるか化」することにした。
 2021年12月に初めてアタッチメントの特許を取得し、地元のメディアでも紹介され、従業員の励みにつながったという。メディアなどで話題になったことで、新たな顧客が増えるという効果もあった。
 従業員の満足度(ES)が高まっていくと、日々顧客と接している現場社員の努力にも磨きがかかる。高橋さんは「ESの向上が顧客満足(CS)のさらなる向上につながるという好循環をもたらすと信じています」と話している。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 特許を2021年に取得したアタッチメントと2020年に導入した高圧洗浄車によって、作業効率は1.3倍に向上した。長年の取引先である日本製鉄大分工場では20トンの製鉄ダストの回収にかかる時間が8時間から6時間に減ったという。この結果、日本製鉄大分工場で製鉄業務に関わっている企業2社からの受注額が2021年7月期に5750万円増えた。現在は人手不足でさらなる受注増に応えられない状況だが、今後人手の確保ができればさらに5000万円の受注増が期待できるとみている。
 エレファントジャパンの最近の業績は2021年7月期まで2期連続の増収増益と好調だ。今期も好調で2022年7月期の売上高は初めて4億円を突破し、利益も燃料価格が高騰しているにもかかわらず増収見込みで3期連続の増収増益を見込んでいる。
 こうした最近の活動は同社に経済的価値を与えただけではなく、メンテナンス事業の効率が高まったことで、取引先のCO2の排出削減を進めるとともに再利用できる油分などの回収率を向上させた。循環型社会への橋渡し役を演じたいという同社のミッションを体現している。
 またアタッチメントの特許取得への取り組みは2021年3月、「2020年度特許チャレンジコンテスト」(主催・大分県)で優秀賞を受賞した。コロナ禍の苦しい環境下で特許を取得し、業績も上げたという話題が地元ラジオ番組や地元紙で取り上げられた。そうしたメディアへの露出が、取引先企業だけでなく多くの企業に同社の技術力の高さを認知させ、新たな顧客獲得に役立ったという。
 メディアへの露出によって、社員ばかりかその家族がエレファントジャパンの企業価値の素晴らしさを知ることになり、同社のブランディング活動にも貢献した。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 エレファントジャパンの主要な取引先の一つである日本製鉄大分工場から受注しているメンテナンス作業のうち8割は吸引マシンを使った作業だという。30年前までは作業員による手作業でゴミや油汚れを取り除いていたのだが、今では吸引マシンがきれいにしてくれる。しかし今でも2割ほどの場所で手作業による清掃作業を余儀なくされているという。
 地下深くの手つかずの場所や吸引マシンが入らない小さなスペースなどがまだ工場には残っている。誰かがその場所に入り、手作業で清掃作業をしなければ、工場はいつ何時ストップするか分からないリスクを抱え続けることになる。
 高橋さんは「すべての場所を人手に頼らず、効率よく作業できるようにしたい」と語る。現場で働く作業員の負担をできるだけ軽くし、工場をきれいにしたいという。工場がきれいになるとラインの故障も減り、生産性は上がる。その結果、工場からのCO2排出量は減り、地球環境が改善するはずだ。循環型社会への橋渡し役になりたいというエレファントジャパンの志の実現には、さらに高い頂に登っていかねばならない。
 そのために必要なのは現場作業員の負担を軽減するための技術革新である。それを支えるのは「人の力」だと高橋さんは信じている。吸引マシンを導入すれば、すべてが解決するわけではない。アタッチメントを開発し、制限が厳しい場所での作業を可能にするのは現場の作業員の「経験知」である。例えば真っ赤に溶けた鉄が流れるラインの近くで安全に清掃作業をするには、長年の経験知から生まれたノウハウが不可欠だ。そうした経験知を積み上げて、吸引マシンの新たな操作方法を創り出していかねばならないのだ。
 現場の「人の力」こそが技術革新の源である。「社員は志を一つにし、お客様に『ありがとう』と喜んでもらうことを幸せと感じてほしい。まるで家族のような会社をつくり、チームワーク力を発揮したい」。高橋さんの願いである。
 現場で働く社員の様子から彼らの心をくみとり、現場の知恵を引き出し、それを経営陣がしっかり受けとめる。その知恵を現場で生かせるよう経営陣が対策を練る――。そんな現場社員と経営陣との心を込めたキャッチボールからお互いの信頼関係は強固になる。
 毎朝4時に起床する高橋さんが出社するのは午前5時。担当する工場に向けて朝一番に出発する社員らを「行ってらっしゃい」と見送り、日中は営業活動や事務作業をする。そして夜に社員らが工場から帰社すれば、「お帰りなさい。お疲れ様」と迎える。そのため高橋さんは最後の社員が会社に戻ってくるまで待ち続ける日々を送っている。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 現場にはたくさんの知恵や技がある。その現場の力をしっかり受けとめ、経営に生かして顧客サービスを向上させることが重要だ。そのためには日頃の社内コミュニケーションが円滑でなくてはならない。高橋さんは社員が毎日書いている日報をその日のうちに目を通し、翌日までにコメントを書くことを日課としている。「何気ない仕事の中に宝があります。手書きの日報を読み、筆圧や字の形で社員一人一人の心を読み取ります。お客様に助けられたり、お客様に喜んでいただいたりした様子を日報から知り、お互いに喜び、ほめてあげる。そういうコミュニケーションの中で家族のようなチームワークが生まれると思います。それがエレファント魂です」と高橋さん。
 またメンテナンス業務の効率化が進み、数年前から毎週末に終了ミーティングを開くことができるようになった。その週の出来事を共有し、良いことは評価し、改善すべき点は改善策をみんなで考える機会となった。高橋さんら幹部社員は終了ミーティングの議事録に目を通し、コメントし、経営陣が取り組むべきことを素早く議論し、実行に向けて動く。議事録にびっしり赤字に書かれているコメントは高橋さんのものだ(写真参照)。

*終了ミーティングの議事録には高橋さんら経営幹部がコメントを書き込む
*終了ミーティングの議事録には高橋さんら経営幹部がコメントを書き込む

「心を読み取り、心を込めて通じ合うには手書きのやりとりが大切」と考える高橋さんだが、エレファントジャパンの社内コミュニケーションとしてLINEや動画なども駆使している。リアルタイムに伝えなければならない連絡事項にはLINEを使い、作業改善のビフォー・アフターを映した動画をGoogleドライブにアップして情報共有を図っている。高橋さんは「義理人情の世界とDXの世界とをケースによって使い分けています」と話している。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 企業価値発展大賞に応募したテーマは、自社開発のアタッチメントや新たに導入した高速洗浄車を活用し、工場のメンテナンス作業の効率化をさらに高めたことである。作業の効率化は従来の1.3倍に向上した。顧客にとっては工場の稼働率アップという「喜び」を与えた。
 エレファントジャパンは創業以来、清掃作業を中心とした工場のメンテナンス業務を請け負ってきた。同社は30年前に業界で初めて吸引マシンを導入し、それまで手作業で進めていた清掃作業を機械化した先駆者である。「3K」と呼ばれることもある清掃作業を機械化することで作業員の負担を軽減し、作業の効率を高めてきた。
 長年続けているメンテナンス作業の改善活動だが、いまだにすべての作業を手作業で清掃しなければならない場所が工場内には2割ほど残っているという。そうした困難な場所でも作業員が楽に作業できるような改善活動を今後も続けていかねばならない。今回の応募テーマは100%の機械化を目指している同社にとっては大きなメルクマールとなる一里塚といえる。
 またエレファントジャパンの企業ミッションは、工場のメンテナンス作業を通じて、循環型社会を築く橋渡し役になることである。今回の取り組みはメンテナンス作業の効率化を通じてCO2排出量の削減や再利用できる資源の回収率アップを実現した。まさに脱炭素社会と循環型社会の実現に向けてさらに歩を進めたことになる。
 今後の経営課題は現場の「人の力」を質量ともに増やしていくことだ。産業廃棄物処理や清掃作業に対するイメージは必ずしも良くはなく、人材育成・確保にはイメージアップが重要だ。今回、自社開発したアタッチメントが特許を取得し、作業の効率化と同社の業績アップを実現したことで、地元メディアが同社を紹介し、大分県が主催するコンテストで優秀賞を受賞した。
 しかもエレファントジャパンの取り組みは脱炭素社会や循環型社会の実現にとってなくてはならない時宜にかなった仕事であり、エッセンシャルワークだといえるのだ。今はまさにイメージアップの好機である。
 エレファントジャパン代表取締役の高橋枝見さんは「私たちの業務が循環型社会への実現に向けて不可欠な仕事だというスーリーづくりをしていきたい」と話す。今回の取り組みを生かすことで同社のプランディングを高めていけば、持続的な人材育成・確保につながる可能性がある。

株式会社グローバル・システム・クリエイト

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 メガバンクみずほ銀行を含むみずほフィナンシャルグループのコンピューターシステムに多年度にわたって重大な障害が続き、銀行間決済などが出来なくなる、といった事態は、企業関係者のみならず一般の消費者を驚かせた。同時に、当たり前に作動するものとばかり思いこんでいたコンピューターシステムにさまざまなシステムトラブルなどが起きるのだ、ということがわかり、システム問題に強い関心が集まるようになった。
 そうした中で、株式会社グローバル・システム・クリエイト(田中寛利社長、本社東京、資本金4300万円)はITソフトウエア企業として、有力企業などの業務系システムの開発、設計、基盤構築にとどまらずシステムの運用、保守管理までを受託して手掛ける。システム設計から保守管理までをトータルに手掛ける企業は、IT業界でも少ないだけに、信頼度の高い企業として定評がある。
 2021年春、流通大手企業の業務系システムの開発~テスト段階において、開発を請け負っていた大手IT企業が、要求仕様どおりに完成させることが出来ない、ということが判明、プロジェクトから撤退することになった。そんな中、その流通大手企業から、ずっと以前から運用支援、保守業務に携わっていたグローバル・システム・クリエイトに対し、開発依頼を求めてきた。そこで、再調査してシステム開発から徹底的に取り組み、何と半年後、見事に問題解決を行った。システム大手も対応しきれなかったトラブルを解決したことで、専門プロ集団という評価がますます上がった。

 田中社長が2021年を含め今、最優先課題の1つとして取り組んでいるのがIT人材、とりわけシステムエンジニア人材の確保対策だ。経済産業省調査では2030年に日本国内のIT人材不足は最大で79万人に及ぶ、という。そこで、田中社長は、首都圏でとりわけIT人材確保が難しいことから、自身の出身地の九州福岡地区を中心にサテライトオフィスをつくって親の介護などの問題でUターンした人材の確保に乗り出すと同時に、ネット上、オンラインでつなぐリモートワークによって首都圏企業とのプロジェクトに参画してもらうプロジェクトを進めている。

2. 具体的な活動内容

 田中社長によると、IT人材確保策として、2021年までに福岡県飯塚市、長崎県大村市の2か所にサテライトオフィスをつくり、それぞれ首都圏などからUターンした15人、2人の優れものIT人材を半ば常駐させることに成功した。そのサテライトオフィス、そして福岡市天神の福岡営業所とリモートワークによって、首都圏のさまざまな企業のプロジェクトに参画、グローバル・システム・クリエイト社のインフラ基盤構築サービス、システムインテグレーションサービスの2つのプロジェクトに円滑に取り組んでいる。
 田中社長は「これまでは、オンサイトでのプロジェクト参画が大半だったので、Uターンで地方に在住してしまったエンジニアがプロジェクトで要求される高度のスキルを持っていても、首都圏プロジェクトに参画、ということがむずかしかった。そこで、サテライトオフィス化を進めた」という。
 田中社長によれば、人材がひっ迫する首都圏と違って、地方都市には優秀なIT人材がいて人材確保ができた。地方都市でのIT業務の請負単価は首都圏に比べて、25~30%は割安だったが、首都圏と地方との連携でエンジニアがリモートワークなどを通じて、システム開発や保守などのプロジェクトへの参画が可能になり、まさにWIN・WINの状況だ、という。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 田中社長は、サテライトオフィス化などによるIT人材確保を着想したことについて「30歳半ば以降になると、親の介護、子育てなどのからみでやむを得ず企業を退職せざるを得ない問題が現実化している。優秀なエンジニアが何とか仕事を継続して才能も伸ばし、かつ面白いプロジェクトにつけるようにしたい。セキュリティと品質確保ができ、しかもオンサイトが条件といった問題をなくせれば、何とかなるのでないかと、私は真剣に考えた。その結論が、地方にサテライトオフィスをつくってオンラインでつなぎリモートワークで行えば、首都圏の人材確保難、採用難も同時に解決できる、という点だった」と述べている。
 さらに、田中社長は「取引先の企業の中には、オンサイトにこだわる企業もあったが、企業によってはコロナ禍で一気に在宅勤務を含むリモートワーク化を進めざるを得なくなったため、私たちのサテライトオフィス化などにも理解が進み、問題解決につながりつつあります」とも述べている。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 グローバル・システム・クリエイト社にとっては、コロナ禍というハンディを大きく抱えているものの、このサテライトオフィス化などによるIT人材確保策でプロジェクト受託も増え、直近の経営数字は過去最高益で、経常利益率10%超の達成にも貢献した。しかも29期連続黒字も達成した、という。
 田中社長は「コロナ禍の長期化が避けられない状況下で、トライアルといった意味でチャレンジしたサテライトオフィス化が大きな成果を生み出しつつあるので、私たちとしては、九州全域、四国、それに東北の地域にサテライトオフィスを広げる計画でいる。働き方改革のモデル事例にしていきたい」と極めて意欲的だ。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 グローバル・システム・クリエイト社の本業部分のインフラ基盤構築サービス、システムインテグレーションサービスは、29期連続の黒字という経営数字にみられるように、田中社長の経営面でのリーダーシップで、順調に拡大傾向で進んでいる。
 しかし、日本はこれまで政府を中心にIT化、デジタル化を叫びながら、それに見合った対応を進めていなかった。米国や中国のデジタル化との差の遅れは大きく、その意味で田中社長ら民間企業のサテライトオフィス化による地方のITエンジニア人材の確保策などの取り組みは、大きな評価の対象になる。
 田中社長は「諸般の事情で地方にUターンせざるを得なくなり、しかもそれら地方を離れられない人たちが、リモートワークで首都圏のプロジェクトに参画できれば、地方に居ても最先端の技術に触れる機会が増えることになる。私たちは、地方の優れもののITエンジニアと連携して、取引先の大手企業のITニーズ、デジタルニーズなどに積極貢献していきたい、と考える」と述べている。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 田中社長によると、グローバル・システム・クリエイト社としては、オンサイトに限定せず、早くからリモートワークでさまざまな業務系システム開発、設計、構築作業、運用、保守管理に参画することを狙っていた。ただ、それを実行に移すためには取引先企業の理解や了解が必要。とくに、相手方企業には、私たちがセキュリティと品質、コミュニケーションを確保して、それをもとに任せても安心だ、大丈夫だと思っていただくことにかなり苦労した、という。
 このため、グローバル・システム・クリエイト社は、ISO27001、ISO9001という規格の認証を受けるように準備対応をしていた。ところが新型コロナウイルスの感染リスクの高まりで、運悪くオンサイトで感染者が発生し、それに伴い職場環境対策として現場の消毒、濃厚接触者の自宅待機、感染者の職場復帰時期の遅れなどによって、プロジェクト運営に支障が出てきた。
 しかし田中社長は「こうしたコロナ禍がいい意味で、背中を押すきっかけになり、リモートワークによるテレワークが大きく進む結果となった」と述べている。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 田中社長は、サテライトオフィス化に関しては、すでに述べたように九州全域、四国、さらに東北地方に拠点づくりを進めつつある。
 このほか、田中社長によると、首都圏を含めて地方でのITエンジニア人材の採用方法に関して、オンラインによる面接など採用システムを一気に変えた。今後も、コロナ禍の長期化が避けられない状況下で、オンラインでの採用を定着させていきたい、という。
 田中社長は、「2021年度採用で新卒大学生・大学院生の入社が7人。うれしいことに京都大、大阪大の国立大のほか、私学も早稲田大、同志社大、東京理科大の入社が実現している。2022年度採用も6人が内定し、熊本大、岡山大など地方の大学の優秀人材にも採用を広げている。最終面接に関しては、私が経営代表として、オンラインのZOOMで1人1時間、たっぷりと面接している」と語っている。

三協精器工業株式会社

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 三協精器工業(本社・大阪市東淀川区、売上高15.2億円(2020年7月期)従業員110名。以下、三協精器)の主業務は、各種スプリングを中心とした金属部品の製造・販売。主要取引先は自動車メーカー。2017年8月、熊本工場に導入した大型機器により、冷間成形として世界最小線径(0.02ミリ)から最大線径(20ミリ)まで加工が可能となった。「世界一の金属機能部品総合メーカーを目指す」事を社是としている。
 ここ数年の同社については、ある異色の事業への進出が目を引く。2017年、北海道・札幌市で羊肉のバーベキューを中心に展開していた飲食業の(株)クスモトをM&Aで買収。2019年4月に設立したグループ会社、士別三協(株)がそのクスモトの飲食業を吸収し、同年12月に同じ北海道の士別市に羊の牧畜のための士別三協ファームを立ち上げ、羊舎3棟を建設した。
 要は、グループ内で羊の牧畜業と飲食業という2事業を立ち上げたのだ。日本でもポピュラーなサフォークと呼ばれる種類の羊の飼育41頭からスタート、現在は200頭以上に上っている。士別三協が手がける事になった店舗「士別バーベキュー」は、買収後にインバウンド需要が増え、北海道の外からの客も増えたという。

2. 具体的な活動内容

「『士別バーベキュー』には将来性があります」――そう話すのは、三協精器の赤松賢介代表取締役社長。その理由を順に説明していこう。日本で羊肉といえばジンギスカン、それも羊特有の匂い、クセを消すために味付けされたものが中心である。
  「『くさい』『クセがある』『翌日まで残る』といった羊肉のイメージは、日本で流通している羊肉の99%が輸入物であることが原因。輸入物の多くは大量生産される半面、羊じたいの健康状態、飼料やストレスの多寡によって個体差が生じます。その結果、味に臭みや特有のクセが生まれてしまうのです」(赤松社長、以下同)
 しかも、北海道内で道産の羊肉の数は圧倒的に少なく、99%以上を輸入に頼っている状態だとか。ただ裏を返せば、実は北海道を始め日本人の大半は、“匂わない”“クセのない”本来の羊肉の味を知らない、という事になる。ならば輸入モノを使わずに自ら質の高い羊肉を生産し、ジンギスカンではなく羊肉本来の風味が楽しめるバーベキューで他社との差別化を図ればよい、というわけだ。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 「牛や豚はすでに多くの人が手掛けていますから、新しくビジネスを始める際は羊のようにニッチなところから入るべき。例えば松阪牛のような成功例がすでに占めている市場に、今からブランディングして参入するのは難しい。一次産業である農林漁業の従事者が、二次の製造業、三次の小売業に至るまで一体となって進める「6次化」がよく言われますが、成功例は今のところ淡路島の三年トラフグ、大分の関鯖など数は限られます。最近はネット経由の販売で状況が変わってきてはいますが、自分の思いだけで「おいしい、おいしい」と手前味噌で言っていても、お客様が買わなければ意味はありません」

 確かに理にかなった見立てと言えよう。もっとも、そもそも大阪の部品メーカーがなぜ、北海道で羊肉を清算しようと思い立ったのだろうか。
「実は、20年以上前から牧畜業を含んだ農業に興味を持っていました。なぜなら、わが社の売上高の約40%は自動車メーカー向けですが、その次に多いのが約25%の農業機械メーカー向け。本当により良いモノづくりを行うには、最終的にわが社の製品を使うユーザーを想像することが必要ですが、そのためには『顧客の顧客になる』ことが早道です。それは我々が農業機械メーカーの顧客、つまり農業機械の使い手になることなんです」
 普通自動車と違って農業機械は、実際に農業を手掛けている者でなければなかなか買えないし、借りるのも難しい。三協精器は農業機械の利用者のニーズを理解するために、自らが牧畜業を含む農業の従事者、つまり農業機械のユーザーとなった。

 加えて、買収当時のクスモトの売上高は、三協精器の10分の1以下の約1.2億円。この後に資金に窮したとして、例えば設備投資で冷蔵庫を買うとしても300万円程度。この金額で買える産業機械関連の設備は皆無だ。このスケール感の違いから、本業に影響はないと判断したようだ。
「それにグループ全体で見ると、資金繰りを柔軟に行えます。メーカーの資金回収は手形の期日が120日とか、長くて150日とサイクルが長期に渡るのに対し、飲食店は現金回収だし、カードの支払いでも1か月目。逆に農業は、例えば羊の飼料代などを「年1回の収穫時に支払う」という発想のサイクルです」
 異なる事業どうし好不調を補い合って、資金繰りがよりスムーズになるわけだ。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 赤松社長は、このクスモト買収直後から自社製羊肉のブランド化に動き出している。
「買収直後から、北海道士別市に相談・協力してもらいながら進めています。もともと士別市は40年ほど前から“士別はサフォークの町”としてアピール、道内では多少知られた存在なんです」
 三協精器の参入で、そのさらなる活性化にも期待がかかる。今年1月3日からコンサルタントとしてブレインゲートの酒井光雄氏を指名、ブランディングについて相談している最中だという。
「士別市は、市長も含めて市役所の方々全員が私どもを応援し、ご活用して頂いています。私どもも市の制度を活用し、士別の名前を使わせて頂いているので、恩返しとして町興しに繋がればよいなと思っています」

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 こうして牧場を開いてから2年、数々の努力の成果が早くも形になり始めているようだ。サフォーク種は体が大きく良質な肉が取れるが、ストレスに弱く病気になりやすいという。
「そのサフォーク羊にストレスをかけぬよう、放牧を多く取り入れたり、飼料は成長段階に合わせて変えたり、腸内環境を整えるために納豆菌や乳酸菌、海藻のペレットや有明海の板海苔を水戻ししたものを混ぜたりと工夫を凝らしました。かつウエアラブルの端末を使用し、羊の体重など健康状態を一括でデータ化し、体重を増え過ぎぬよう飼料の増減など飼育方法のチェックも行いました。ともかく、いいと思える事は全部やりました」
 赤松社長がその美味しさの指標としていたのが、フランス産のあるマトンだった。
「口にした途端に絶句するくらい、私にとって過去最高に美味しかった羊肉です。キロ当たり1万円近くという高価格。でも、昨年12月に最初の出荷用として試食に回した羊が、それと匹敵するか、超えたと言ってもいい美味しさだったんです。最初からこんなに美味しい羊肉ができるとは思っていなかった。今後は『士別三協ファームの羊は別格だ』と言われるくらいにブランドを育てないと。宣伝したり、物産展に出す性格のものではありません。正攻法によるやり方を、今年から模索しています」

 もっとも、今年の年内に出荷できるのは50頭程度、多くて80頭にとどまる。羊は牛・豚などに比べて個体が小さいので、まだ十分な供給量とは言い難い。
「昨年6月、大阪に『士別三協ファーム直営 士別バーベキューはなれ』という高級店を開きました。少し高級店にした理由は、供給量がまだ十分ではなく、希少な部位だけを使う高級店でないと対応できないことと、先にカジュアルな安い店を始めたら、後から高級ハイエンドな店に移ることが難しいから。高級店を我慢して運営しながら、そこで余った部位を活用できるカジュアル店を、同じ地域でセットで作る。東京にはこのやり方で進出しようと考えています」

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 では、この士別三協の牧畜・飲食の両事業は、部品メーカーとしての三協精器の本体にどんな影響を与えたのか。
「まず、農業機器メーカーの単なる部品の仕入れ先ではなく、最終製品である農業機械を購入するお客となったおかげで、非常に大切にしてもらえるようになりました。購入量一つとっても、パートナーとしての意識を先方さんも持ってくれる。私どもの営業も持つことができる。さらに、私どものばねの製造の現場の社員も、自ら作った部品を手掛ける農業機械を少しは身近に感じられます」

「私どもの本業は製造業、しかも組み立てではなく加工業であり、そこに従事するばね職人を養成するための手法があります。同じ職人である羊飼いや、とりわけ離職率の高い料理人という職人に対しても、私どものやり方は有効だと思っています」  もっとも、品質管理の観念には本体とまだ大きな差があるという。 「製造業で要求される品質管理のレベルが、牧畜業・飲食業とではまったく違います。そこにまで達するまでにはまだ時間がかかります」―― ここが今後の課題の1つと言えよう。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

今後は士別三協にも製造業の厳しい管理方法を浸透させ、グループ全体の売り上げを上げていく、と赤松社長は言う。
「コロナ禍前には、士別三協の売上高は1億5000万円に達していました。今後5年でその3倍の約5億円に、10年後に10億円まで伸ばせればと考えています。コロナ前は取り合いだった北海道産の羊肉は、コロナ禍の下で他の多くの飲食店が店じまいしたために、供給元を押さえることが出来たところも多々あります。10億円に迫る頃には、業態をFC(フランチャイズ)制に転換しているかも知れません。既に旭川で希望者が手を上げています」
 部品メーカーが手掛ける牧畜業と飲食業。ユニークだがしっかり裏打ちのある事業展開を注視したい。

株式会社ダイニチ・コーポレーション

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 楽器や工芸品、注文服など職人が伝統的な技術で作った商品は手作りであればあるほど高級とされるが、価格の安い日用品の分野でハンドメードというのは珍しい。
 手作りだからたくさん作れるわけではない。大量生産される合成洗剤とは質的に異なる。
ダイニチの主力商品は、自社製造のキッチン用固形洗剤と固形洗剤の専用スポンジである。固形洗剤は、かまぼこを作る丸い臼が回る撹拌機で作る。製造に2時間、軽量と充填に3時間をかけてできるのが約250個(750g/個換算)。出来上がり時は、ソフトクリーム状で一晩かかって固まる。
洗剤が全うしなければならない、高い洗浄力と手肌への優しさ、環境への配慮は、当たり前の機能として50年間臼を回し続けてきた。
スポンジは、OEMだがポリウレタンという発泡体をカットしている。
泡立ちや泡切れが素早くできるよう、空気を通しやすい構造と密度にこだわっている。
100円均一との比較は好ましくないかもしれないが、600ml入り液体洗剤(界面活性剤成分18%)が110円、750g入り弊社固形洗剤(界面活性剤成分36%)が1293円。
3個のキッチンスポンジが110円、1個348円は、弊社スポンジ。
価格差を埋める以上の機能面でのパフォーマンスをお客様自身が実感しなければ商売は続かない。
 創業時、大量生産・販売ができない商品のため問屋に相手にしてもらえず、市場の開拓に苦労したという苦労話を吉田社長は先代社長の父親から聞いた。原価に中間マージンをプラスしていくと、それなりの価格になってしまう。中間マージンをカットした価格で販売するには、直接顧客に販売するしかない。そこで先代社長は、団地や飲食店などに直接売り込みに歩いたという。
 いまやネット通販が当たり前の社会。インターネットの出現は、ダイニチにとっても〝救世主〟となった。ネットの活用で業績が上向き、ここ5年間は同じような伸び率で推移。コロナの感染拡大が騒がれるようになっても販売量、伸び率は衰えなかったどころか、むしろさらに上向いてきた。
 雑誌やテレビなどのメディアにも取材される機会が増えてきたが、影響力という意味ではSNSの方が多く反応も早い。売り上げの増加は、インターネットの効果でブランド名が浸透してきたということもある。ネットの威力は新しいビジネスモデルの構築にもつながった。楽天やAmazonの物流倉庫を活用していくことで、注文して最短翌日には届く体制を作った。それまでは事務所に在庫を抱え、注文を受けると袋詰めして宛名を貼って送る、という作業をずっとやっていた。キッチン用洗剤やスポンジなどは典型的な日用品であり消耗品。欲しいときにすぐ手元に届くというのは、かなり重要な要素だ。2年前ぐらい前から取り組んでいた物流面での改善策が軌道に乗ってきたと感じている。
 売り上げのアップは新型コロナウイルスの感染拡大で〝おうち時間〟が長くなった、いわゆる巣ごもり需要の高まりや、感染予防の面からより清潔さを意識するようになったということもあるだろう。洗剤の成分である界面活性剤はコロナウイルスに対する除菌効果があると言われている。
 現在、楽天に顧客の口コミが9000件ぐらい届いている。商品の機能性や使い心地といったことだけでなく、注文したらすぐに届いたというサービス面での評価をされるお客さんもいる。配送サービスという意味では顧客の満足が得られる水準になってきた。

2. 具体的な活動内容

 こうした活動によって得られた成果、売上は、販売チャネル別で電話注文以外前年を上回った。楽天市場は126.3%(44百万円増)、アマゾンは206.4%(25百万円増)、自社サイトは132%(1.2百万円増)、合計実績昨対132%(67.5百万円増)のアップ。

 手作りの固形洗剤はニッチな商品だけに競合他社は少ない。キッチン用の手作り洗剤を生産販売しているメーカーは3社程度だろう。競合という意味では断然有利だ。なかには3倍から4倍の価格で売っている同業他社もあるが、高品質だから値段も高くていいという考えはとらない。あくまでもいいものを適正価格で提供するという姿勢だ。
 ただ、実際の競合品は液体洗剤であり、少ない競合固形他社を巻き込んで固形洗剤の認知度を上げる戦略に取り組んでいる。

【洗剤】
 お試し用としてスポンジとのセット商品をメール便サイズで送料無料としたところお試しセットの注文が10倍になった。
最大の販売チャネルであるネット通販における対策として楽天市場、Amazonの商品ページ改善に取り組んだ。
楽天やアマゾンでは、どうしてもそのショッピングモールの一商品に過ぎない印象があり、生産者のものづくりの理念やこだわりどころなどをお客様に伝えることが難しい。しかし、限られた商品ページを最大限に生かせるページ作りにこだわるため、制作会社選びから慎重に選定した。制作途中であってもこちらの思いが表現できない場合には業者変更も行い、結局この1年に3社の変更を行った。
使いやすさを追求した機能面、商品のわかりやすさにこだわった商品画像、限りあるページスペースをセンスある上質なものに改善した結果、いえ今も改善し続けている結果来場者数、来場した方の購買率、購買単価など売上アップの要素すべてにおいて右肩上がりの数字を見ることができた。

【キッチン雑貨 サンサンスポンジ 企画改善】
 従来の機能はそのままにカラー展開を拡大。大人気のモノトーンシリーズ(ブラック、プレミアムブラック、バニラホワイト)に加えて新色シルキーグレーを追加。発売早々に売れ筋No.1のブラックを追い抜く勢いが続いている。
 近年のキッチンカラー傾向に沿って、モノトーンカラーだけの4色セットを販売。こちらも順調な滑り出しを見せている。
 2022年お正月企画として、寅年にちなんで年末よりレモンイエローを追加投入。新たなお正月4色企画はラベルデザインに工夫を凝らし、想定以上の2000セットを超えた。
 お正月企画後には、レモンイエローのラベルを従来のパターンを踏襲しつつ、単なるカラーバリエーションのひとつとして販売するのでは無く、ラベルデザインをきれいに、おいしそうに、遊び心を取り入れたものにした。(2022年2月1日発売予定)
スポンジのカラーバリエーションは現在8色であるが、今回のレモンイエローのようにいかにお客様が楽しんでお買い物ができるか、いかにカラーを楽しんで選定できるか、いかにキッチンでの家事を楽しめるかを追求しながら、一つ一つのカラーを大切にプレゼンテーションできるよう商品企画やページを改善している。
商品を売るためだけの商品ページではなく、お客様に楽しんで頂けるページでなければならない、それができるチームをつくることが、最大の改善案とする。
2022年シーズナル企画第2弾として母の日ギフトを企画中。
価格帯、商品構成、お客様の手元に届いた情景をイメージして梱包を決める。
華美ではなく、貧相でもなく、依頼人の心が伝わるギフトであることにこだわる。

【ネット通販対策】
 楽天市場やAmazonの販売サイトの商品ページを大幅改善し回遊率や転換率を向上させ結果的に販売数、金額を増加させ昨対130%を実現。広告費の効率的な使用方法を模索するため、PCDAを繰り返し行い高確率での広告費用対効果の改善が実現した。D2Cの強化の一環として、自社サイト用新ブランド立ち上げ、洗剤とスポンジ以外のキッチンアイテムを揃え、キッチンセットとしての新商品企画が進んでいる。

【マーケティング SNSの活用強化】
 インスタグラム公式ページを作成することによりご紹介いただいたお客様に能動的なリアクションを取りやすくした。
 ライン公式ページを作成し、新商品の開発時のアンケートやモニタリングでの参加意識を促しやすくした。
SUNFRIENDSというダイニチ・コーポレーションのファンクラブ的なコミュニティを結成し、新ブランド構築のブレインとして活用している。
 ファンと一緒にブランド作りを進めるプロセスマーケティングを実践。
 ブログやYouTubeでの露出や紹介をいただいたお客様へのお礼を強化し次回へとつながる対策を行っている。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 自社商品をいくら自社がアピールしても説得力は無い。第三者の推奨、つまりお客様からお客様へのご紹介あってこそ、その商品の価値や信頼性は築かれていく。今後はSNSで分かりやすく商品の使い方や有益な情報の発信を行いつつ、日々のお客様からの口コミや投稿を大事にし、コミュニケーションをできる限りとっていくことでお客様とともに繫栄していくことを意識していきたい。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 大手メーカーが支配する業界で、販売に苦労した時期もあった。しかし、決して価格を崩すことなく、セール(安売り)をしなかった。それが良かったかどうかはさておき、先代社長は、いいものを適正価格で提供することを一つの信念、ポリシーとして経営を続けてきたことは間違いない。その問題を解決してくれたのがインターネットだ。
 ネットの口コミ効果は強烈だ。雑誌や新聞などの活字メディアと比べて、SNSの反応は断然早い。拡散するスピードも速い。影響力のあるインフルエンサーの第三者的な評価は消費者の心に響くものがある。そういう意味ではネットの威力を肌身で感じている。
 当社は「顧客体験」を重視している。品質を落とさず、よりいいものにしていく改善の努力を続けることは大前提だが、注文を受けて商品を配送して顧客に届けるところまでのカスタマージャーニー的なイメージは「丁寧さ」というところに現れてくるのではないか。ユーザーの問い合わせに迅速に対応する、質問があれば休日でも答えるといったことなど、一人ひとりの顧客に丁寧に対応することで会社のファンになってもらうという考えだ。
 スタッフが少ない中で、消費者の目線を忘れてはいけないというのは常に意識していて、実際に洗剤やスポンジなどの商品を使うユーザーの意見を取り入れていかないといけない。そのための意見を発信、あるいは吸収しやすい場所、直接我々開発側の思いを消費者に届けることができるプラスフォー的な仕掛けを作っていきたいと考えている。

 「Sunfriends」というダイニチ・コーポレーションのファンクラブ的なコミュニティを結成し、新ブランド構築のブレインとして活用している。定期的に座談会を開いたり、アンケートを実施したり、主婦の方々の意見を取り入れていく場所、ラインというみなさん利用されているツールで、みなさんの意見を開発側の我々に届けることができるプラットフォーム的なものを作りたいと。ユーザーさんたちも自分たちで新しいブランドを作るんだという気持ちになって頂く。やはり家事というのは面倒なモノですから、そこから新商品のアイデアも出てくる。こうしたコミュニティとの関係強化も図る。2022年2月に社屋を移転することにしており、社内のフリースペースを活用して開発会議や座談会、イベントへの出店や開催も積極的に実施することにしている。
 自社サイトの登録会員は約270人。楽天のコミュニティはまだ立ち上げて半年程度だが、650人いて、その数は日を追うごとに増えている。新たな差別化戦略として、このコミュニティを活用して新ブランドを立ち上げる予定だ。機能性はしっかり担保しつつ使うのが楽しいと思わせるような付加価値を加えた商品を開発する。いままで品質を重視し洗剤に香りを付けたことはなかったが、有名な調香師にブレンドを依頼して、天然の成分だけで香りを付けた製品を開発しようといま計画中だ。機能性を担保しつつ置いてあるだけで、利用者の方が豊かになれるような商品作りをしていこうというのが狙いだ。
 自社の商品を第三者(顧客)からのお薦めやユーザーのお気に入りとして位置付けられた商品だけを販売したい。機能的であること、お洒落であること、環境に配慮したものであること。この3要素はひとつでも外せないと考えている。
楽天市場での転換率昨対135%増(100人の来場者に対し購入者の割合を示した数字 ちなみに13.41%⇒18.17%へと改善している。また、同業他社の転換率は平均4.68%となっており、来場されたお客様が弊社のサイトで購入される確率が他社の3.7倍いらっしゃる計算になる。このことは、弊社の商品ページがわかりやすく買いやすい、ページへ改善に次ぐ改善を重ねた結果となっている。売上件数は、同業他社が年間47.8千件に対し、弊社は127.8千件と2.7倍となっています。これは、機能的な商品ということ以外にSNSで取り上げ易いファッショナブルなデザインパッケージや工夫された広告掲載が大きな改善ポイントとなっている。

〇HACCP(ハサップ)対応商品としての認証を得るための行動を実施している。
〇環境に配慮した商品企画の一環でプラスティック容器をバイオマス原料が配合された容器に変更中。
〇スポンジの原料ポリウレタン自体をバイオマスポリウレタンで構成するスポンジへと移行させるべく原料メーカーとのパイプも強化している。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 自社の商品を第三者(お客様)からのお薦めやお客様自身のお気に入りとして位置付けられた商品だけを販売したいという思いで機能的であること、おしゃれであること、環境に配慮したものであることといった3要素をひとつでも外せないものつくりを心がけている。単なる流行りのキーワードとしてではなく、200年企業を目指すに相応しい“エシカル”“エコ”“SDGs”へのアプローチを加速させる商品作りを心掛けている。

 OEM先との関係強化も図る。製造工場の現場見学や開発部長との協議の場を増やし、既存商品のブラッシュアップならびに、新商品に向けたアイデアを捻出していきたい。
 小さな会社だが、外部のプロフェッショナルを活用することで、人員不足を補っている。アウトソーシングによる業務委託強化は今後も積極的に行っていく。息子二人が入り「この5人体制で社外の人と一緒に一つのチームとして」商品を作りや販売を加速させていく。

「D2C(消費者直接取引)」ビジネスモデルの構築は最重要課題。D2C(ディレクト・トゥ・コンシューマーの略)とは、中間流通業者を通さずに、自社のECサイトを通じて直接顧客に販売することだ。自社サイトでの販売を伸ばしていくことによってD2Cビジネスモデルの構築。楽天やAmazonの1店舗、1商品というイメージを払拭し、しっかりダイニチ・コーポレーションという会社のことも認識してもらうためには、新オリジナルのブランドを立ち上げる必要がある。新ブランドの立ち上げはいま準備中だ。
 いいものを作り続けるにはコストもかかり、ある程度売り上げを確保することも必要だ。この5年間、130%の成長を達成してきているが、それを今後も踏襲していく計画。
売り上げは150%以上の売上増を念頭に、3年後は10億円の売り上げを目指す。
 来年は創業50周年。「100年企業」という表現は珍しくないが、ダイニチは「200年企業」を目指した未来戦略を練っている。

 いたずらに流行りを追うことなく、200年企業を目指すに相応しいエシカル(倫理的)で“エコ”な商品作りは欠かせない。人の心に響くデザイン性を併せ持つことも重要だ。当社は愚直にいいものを作り続けてきた。上質なモノ・サービスの提供。その企業姿勢を堅持しつつ新しい戦略を展開していけば、百年企業どころか二百年企業も夢ではない。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

  • 商品自体の機能性、ハイセンス性、環境への配慮を怠らないバランスが行き届いた商品作りは大変困難で、いつもこだわり続けるという姿勢が大切であると認識します。
  • SNSの活用においては昭和人間には厳しく、ただ、必要性を強く感じることから積極的にインスタグラムやフェイスブックに慣れようとしています。
  • 業務改善という点では、コロナ禍にありリモートでの打ち合わせが極端に増えいかに効率よく、正確にこちらの意図を伝えるかに苦心しました。
  • 売り上げの主軸となる商品は、スポンジ4個セット(上代1393円)の単価の安い商品ですが、それだけに出荷件数が多く、楽天市場やAmazonの倉庫を利用し、いかに早く、正確にお届けできるかに集中しました。現在は、お客様のご注文に対し、決済審査、倉庫への出荷指示、御礼メール、出荷完了メールを全自動で行うシステムを利用できるようになり早く商品が届いたと大変好評を頂いています。
  • 年間のスケジュールに基づいてタイムリーな商品提案をすることに注力しています。
    お年賀、福袋、ホワイトデー、新生活応援、母の日、クリスマスなどのタイミングに適切な商品やセット商品の提案をしていますが、準備期間が最低2か月必要で早め早めの準備に苦労します。準備には、社外のデザイナーやコーディネーター、外注さんの応援は不可欠でより良いネットワークを構築することに神経を使っています。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 今後は固形洗剤やスポンジなどキッチン用品の「もの作り」だけではなく、お客様が幸せになっていただけるようなサービスやプラットフォームの提供も視野に入れている。有形、無形に関わらず、生活が豊かになるような体験、サービスを多面的に提供できる会社にしていきたい。
 その為にはお客様との密なコミュニケーションは必要不可欠。「Sun Friends」というファンクラブ的なコミュニティを立ち上げ、座談会やアンケートを定期的に実施しており、貴重なユーザー様の意見を収集する場の構築に注力している。そこから新たな差別化戦略の策定、新ブランドの立ち上げへと昇華させていく予定。
 ユーザー様自身も自分たちで新しいブランドを作るんだと、主体的な気持ちになって頂けることで、日々の生活がより充実していくものになっていけばよいなという気持ちも込もっている。
 お客様ファーストの精神や対応力の早さは、創業者の時代より大切にしていきた理念であり、今も最優先に心掛けている。
 その根底にある考えとしては、お客様、各サプライチェーン、そして私たちメーカーの三者が幸せになる、三方良しの「近江商人」の理念。それを実現させるためには自助努力はもちろん、お客様とのコミュニケーションや外部のプロとのセッションは今後も重ねていく。
 来年は創業50周年。家族が揃ったこのタイミングを第二創業期と捉え、商品開発だけでなく、バックヤードのDXや内部体制の強化も推進中。
「100年企業」という表現は珍しくないが、ダイニチは「200年企業」を目指した未来戦略を練っている。
 いたずらに流行りを追うことなく、200年企業を目指すに相応しいエシカル(倫理的)で“エコ”な商品作りを心掛けていきたい。

株式会社田中金属製作所

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 2005年、山間の中小企業であり名も知れぬ「(株)田中金属製作所」は自社の特許技術であるミックスジェット方式(特許 第3747323号)を活用した節水シャワーヘッド製品を開発・製造していた。2011年には新たな特許技術ミュージェット方式(特許 PAT第4999996号)を活用した初のウルトラファインバブルシャワーヘッドを市場に投下。当時は約1万円のシャワーヘッドは珍しい時代であり、販売店やユーザには理解がなされなかった。2012年、転機が訪れる。ご縁をいただき東急ハンズ銀座店で社長自らが実演販売に立つこととなり、少しずつ商品の魅力が伝わり始めた。
 2013年、債務超過8000万円の状態であったが「日経スペシャル ガイアの夜明け」に取り上げられた事により、倒産寸前の会社がなんと「3か月」で「債務超過を解消する」という奇跡的なV字回復を果たした。また「日本のチカラ」にも取り上げられ、その他にも多くのメディアに取材、出演依頼を受けることとなった。
 水のプロとして節水、洗浄、保湿、保温をすべて叶えるシャワーヘッド製品を中心に商品を展開。代表自らが店頭販売に立つというビジネスモデルを実践し売り上げを伸ばし続けた。 しかし2018年に2度目の危機。この危機もメディア戦略によりV字回復、現在に至る。

 2020年M&Aにより(株)シャルレの完全子会社となる。業績が絶好調のタイミングでM&Aに踏み切ったのは、会社を永続的に発展させるためだった。企業の将来性を考えたときに、資本力、出口戦略など(株)シャルレが持っているマーケットの広さ等にお互いのシナジーがあるのではないかと考えた。(株)シャルレは女性を元気にする会社。その意味では(株)田中金属製作所も「美容」というテーマがある。「美」には「健康」が欠かせないという点で関連性が深い。会社が永続的に発展するためには組織力やバックボーンが重要である。事業内容が違っても目指すところは同じだった。
 「医食住」ということで言えば、「衣」「食」は(株)シャルレが、「住」の部分は住設機器にはシャワーがあるということで(株)田中金属製作所が担うことができる。「衣食住」を快適にしていく土壌が整った。今後、企業グループの価値が向上していく未来を描きたい。モノづくりの技術継承にも課題は多くあるが、(株)シャルレと(株)田中金属製作所のM&Aを成功事例として日本の中小企業へ勇気と希望を与えられるようシャルレグループとして邁進していく。
 そして同年、2020年コロナ禍の中、シャワーヘッド販売本数は前年を大きく上回ることとなった。

2. 具体的な活動内容

  • 既存の特徴的価値を磨き、発展

これまで行ってきたシャワーヘッド開発において実現してきた「節水」の部分が、脱炭素、CO2削減、エネルギーをできるだけ消費しない持続可能な社会の為に役立つ技術であると再認識。SDGsの観点から新規の製品においても顧客満足を追求するとともに、節水機能を継続し搭載した。 2021年9月 新型シャワーヘッド「ボリーナアヴァンティ」を(株)シャルレに提供。実働1週間で78,000本が完売。 M&A後も業績は順調に伸びてきている。上場企業と中小企業のM&Aよるシナジーにより進化発展を続けている。

  • 新たな特徴的価値を創造、発展

 2013年、医科大学との共同研究に参画しオゾン水生成装置の試作に携わる。オゾンは自然界に存在する物質で強力な酸化力を持ち、その酸化力によってもたらされる除菌の効果は安全且つ強力であることから、医療・食品等の分野でも注目の物質であった。
 有益な物質ではあるが、弱点は「水に溶けてから30分程で消失してしまう・保存が効かない」こと。オゾンをウルトラファインバブル化すれば長時間継続するオゾン水が作れるのではないかと医科大学から共同開発依頼があったが、実現することは難しかった。
共同開発が終了したのちも独自に「ウルトラファインバブル技術」と「オゾン水」を組み合わせたかつてない製品の開発に8年間もの間力を注いだ。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 (株)田中金属製作所の創業の地、岐阜県山県市は「水栓バルブ発祥の地」と呼ばれ、現在でも日本の水栓部品の約40%を製造している。1965年に現社長の父が金属部品の加工会社を創業。メーカーの孫請け工場として水栓部品を作り納めていた。1989年、他社で5年間修業した2代目社長の田中和広が田中金属製作所に戻る事を決意。このとき月の売上高は60万円程度だった。  その後、水栓加工で培った金属加工技術、開発から製造までを自社でおこなうハイブリッド企業として一貫生産を軸にして事業を展開している。強みは特許を取得した超微細気泡ウルトラファインバブルの発生技術(μ-Jet:ミュージェット※特許取得 PAT:4999996号)。この技術を搭載したシャワーヘッドを2011年に開発しウルトラファインバブルのシャワーヘッド市場を創出することとなった。

 自社の持つ技術を発展させ、会社、社員、お客様、すべての皆様が笑顔になる、社会を豊かにする製品を開発していきたいという思いから積極的に開発に主力した。当社の成り立ちから思えばごく自然な流れであり、モノ創りに携わる企業として価値のあるモノを生み出していきたいという考えから全力を尽くした。職人企業である自分たちであるからこそ成し得ることができると考え信念をもって取り組んだ。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

  • 既存の特徴的価値を磨き、発展

 シャワーヘッド開発において初代アリアミストからウルトラファインバブルシャワー ボリーナまでの全シリーズに搭載してきた節水機能。シリーズ販売数は2021年11月時点で100万本を突破した。(株)田中金属製作所の製品は、節水機能を通じて脱炭素、CO2削減、エネルギーをできるだけ消費しない持続可能な社会に役立っている。

  • 新たな特徴的価値を創造、発展

 2020年6月 自社のコア技術である「ウルトラファインバブル」を活用し、他分野で強みを持つ中小企業と協業することで唯一無二の商品をクラウドファンディングにて市場に投下した。
 コロナ収束後も続く新たな生活様式の一つとなるだろう除菌習慣を、携帯サイズで実現した「Bollina O³ MIST(ボリーナ オースリーミスト)」である。オゾンはその殺菌効果を認められてはいたが、オゾン生成のできる機械は大きくて高価なものだった。一般の方々が手に取ることができる価格、サイズ、機能を備えた。
 世界最小クラスを実現した「Bollina O³ MIST(ボリーナ オースリーミスト)」は「水」だけで除菌力のあるオゾン水を生成できる。2013年の共同開発の際の経験を活かし、長時間持続しないのであれば必要な都度オゾン水を発生できる装置を開発すればよいと発想を変えた。使うときに作って、使えばいい。 世の中の方々に使っていただき笑顔になっていただける製品を生み出した。 その後自社サイトでの単独販売を得て2021年4月に全国発売。

 この「オースリーミスト」を使えば約30秒で除菌効果のあるオゾン水を作ることができる。しかも原料は水、肌が荒れる心配もない。今後はオゾン水生成技術商品をシャワーヘッドに次ぐ2本目の柱にしていく方針だ。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 経営理念に永続的発展の記述がある通り、企業は永続的な発展が必要不可欠である。(株)田中金属製作所のモノづくりは、企画、開発から生産、販売まで一貫して行うスタイル。単なるファブレスメーカーではなくモノづくりを軸にした企業体として発展をしていきたい。
 中小企業の事業承継の問題は社会的にも大きな課題である。その中で(株)田中金属製作所は(株)シャルレへ100%株式を譲渡するM&Aを行ったが、(株)田中金属製作所の経営者は変わらず同体制で事業発展。上場企業とのM&Aにより進化発展できた成功事例と考える。(株) 田中金属製作所は、中小企業のスピード感に上場企業のバックアップを得た。シャルレグループでモノづくり企業として自社商品の躍るステージを自ら作り上げていきたいと考えている。
経営者は会社や商品のPRのためになるのであれば、積極的に自分が動く必要がある。
「伝える先に感動があり、感動の先に購買がある」この信念から店頭で社長自身が実演販売することを厭わない。

 シャワーヘッドのユーザーは個人が多いが、積極的に法人需要も開拓していく。例えばホテル業界。当社のシャワーヘッドは50%の節水効果があり、水道料金や光熱費が削減できるだけでなく、快適なシャワーが浴びられることにより利用者も喜ぶ。ホテルの付加価値を高める。メリットは一石三鳥だ。
 伸銅部品 製造組立販売、環境機器、基幹部品製造販売などの受注生産事業はこれまでも会社を支える重要な柱で、今後も続けていく方針だ。シャワーヘッドの分野は「百兆円産業」と予測され、市場は大きく需要拡大が見込まれる。
 今後の経営課題として、ブランドでのOEMも積極的に進めていく。
 オリジナルのウルトラファインバブルの商品やオースリーミストなどメーカーとしての立ち位置、下請け業のビジネス、そのバランスをいかにとるかが大事になってくる。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

  • 既存の特徴的価値を磨き、発展

ウルトラファインバブルのシャワーヘッド製品を各社が開発し市場が膨らむ中で、多機能な製品が次々と登場した。田中金属製作所では、全シリーズを通して環境を考慮した「節水」を重視し新機能を展開する中でも必ず節水機能を搭載した。多機能と節水を天秤にかけ、利便性と環境の最適解を図った。

  • 新たな特徴的価値を創造、発展

「Bollina O³ MIST(ボリーナ オースリーミスト)」においては、オゾン水生成器を一般の方々が使用できる価格で製品化すること。できるだけ安価に、確実に安全なものを、手軽に持ち運ぶことができるサイズで実現することに注力した。これまで培ったウルトラファインバブル技術を活かし、他社ではなしえない「これまでにない製品」を生み出すことに力を注いだ。

  • 特に苦労した点

 シャワーヘッド開発当初、特に苦労したのは販売ルートの開拓だ。東急ハンズから『完売王』の異名を取る実演販売のプロを紹介された。そこで学び店頭での実演販売が認められ、2012年12月1日に東急ハンズ銀座店で社長自ら実演販売を行った。すると1本1万円のシャワーヘッドが2日間で30本完売。その実績が認められ、翌年2013年5月には全国の東急ハンズでお取り扱いいただけるようになった。
 2011年にシャワーヘッドを世に出してから、初代アリアミスト、ボリーナシリーズは販売累計100万本(2021年11月現在)を突破した。同年テレビ東京『ガイアの夜明け』に出たことにより、「注文の電話が殺到し蝉の鳴き声が聞こえなくなる」ほど大きな反響を呼び、劇的なV字回復を成し遂げた。

株式会社トライス

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 コロナ前の令和元年7月20日(決算日)経常利益率9%であった、コロナ禍の令和2年7月20日(決算日)経常利益率6%あったが、令和3年7月20日(決算期)経常利益率12%を確保できた。 当社としては、近年で最高の経常利益率を確保することができた。

 ダイバーシティ経営を目指し女性社員が活躍を推進するための取り組みをスタートした。
総務省の調査によると、国内の労働人口は2008年をピークに減少傾向にあり、今後も労働人口の減少は加速するとみられています。少子高齢化が進む中で女性が活躍できる職場環境を作り、中長期的に企業価値を生み出し続けられるために「対人関係能力=コミュニケーション力」に重点をおいた研修を月1回ペースで学んでもらっています。
女性が中心になって働きやすい環境を作り、おおいにリーダーシップを発揮してもらいます。
また、多様な働き方を尊重する組織では、優秀な人材が確保出来、優秀な人材の離職を防ぎ長く活躍してもらうことができると思います。そして、女性視点を活かした商品開発や新市場開発など女性だからこそ持てる視点や気づきを活かせる職場環境を提供したい。
 これからのポストコロナ時代や少子高齢化で労働力が増えない時代において中小企業においても組織の生存戦略であり成長戦略でもあり、社会貢献であると思われます。

2. 具体的な活動内容

 もともとは伝統的な印刷会社だが、現在は多額の投資が必要な印刷機を保有せず、印刷物の企画制作や動画制作、ウェブ制作、イベント企画制作などさまざまサービスを提供し、顧客の課題解決につなげている。イベント会社や映像制作会社、デザイン制作会社、ウェブ制作会社、印刷製本会社、ノベルティー制作会社などと幅広く協業。総合印刷業から脱皮し、ネットワーク化を推進することによって、印刷機を持たない「情報加工コンサルティング会社」へと変貌を遂げた。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 神戸市に本社を置くトライスは、1995年の阪神・淡路大震災の際、大部分の社員が長期にわたって出社できない事態に直面した。それを機に印刷機を持たず、協力会社を活用するビジネスモデルに転換。1997年に社長に就任した岸徹社長は、「印刷機を捨てる」と宣言した。
 1934年の創業以来、同社は印刷機や製本設備をフルラインアップした総合印刷会社を目指し、設備投資に明け暮れ、その結果、財務体質も悪化していたが、「退路を断った」形だ。
 当時、企業や消費者の間にインターネットや携帯電話、「ウィンドウズ95」といったIT技術が広がりつつあったという時代背景も、同社の方針転換の要因として挙げられる。人口減少、環境保護意識の高まり、デジタルネットワーク化などを受け、新聞の発行部数は減り、それに伴って広告チラシの印刷数も減少した。さらに、企業や個人が自らデータを制作したり、プリンターで印刷したりできるようになったほか、ネット印刷の利用も拡大した。
 こうした流れが加速する中、同社はファブレス化を図る一方で、印刷の前工程である企画デザインの工程に人材を集中させるなどした結果、顧客からの依頼が増えるとともに、社員のスキルも向上していった。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 2021年7月期の経常利益率は12%と急回復し、近年で最高を記録した。経常利益率10%を3年後に達成する目標を掲げていたが、前倒しで達成したことになる。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 1995年の阪神大震災で被災した際、社員の雇用を守ることを優先した。現在も、社員を単なる人材から、「自ら判断し、自ら行動し、自ら成果を出せる『人財』」へと進化させることを「最大の経営戦略」として掲げている。
 そのために、数値目標を掲げ、粗利額目標を重視し、単品ごとに粗利額が分かるシステムを構築。全社員で年度ごとに作成している経営指針書の検証会議を毎月開催し、「多能型社員」の育成のための社内勉強会を開催している。
 また、少子高齢化で労働人口が確実に減少することを見据えるとともに、ポストコロナ時代に向けて組織の存続を図り、さらに社会にも貢献するため、女性社員が参加するリーダー研修を開催し、女性が働きやすい職場環境の整備も進めている。女性の視点を生かした商品開発や新市場開発などにつなげる考えだ。優秀な人材の確保や、優秀な人材の離職を防ぐことも狙っている。
 岸徹社長は、「人を創り、人を育て、人で勝負できる企業」を目指すと宣言している。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 最大の難局はやはり、1995年の阪神・淡路大震災だった。震災直後、いち早く会社を復旧させると、従業員を解雇しないためにも、舞い込んだ仕事を引き受けた。被害が少なかった姫路市の同業他社の協力を取り付け、印刷物の制作を再開。営業社員の代わりに車を持つ学生を雇い、大量の印刷物を姫路から被災地に届けた。当時専務だった岸徹現社長も自らハンドルを握った。
 その際に思いついたのが、アウトソーシングの活用だ。岸社長は、協力会社の品質管理を徹底すれば、すべて内製化しなくても、顧客の満足度を損なうことはないと「体感した」。
 さらに岸社長は1999年の就任後の2001年、IT化が印刷業界に及ぼす影響を調査するため、業界団体主催の米国印刷業界視察に参加。そこで印刷機を持たない企業の存在を目の当たりにし、ファブレス化に舵を切ることに確信を得た。
 阪神大震災という危機を主要なきっかけにファブレス化への転換を決断したことが、同社が重視する高利益率につながっている。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 「学校案内のパンフレット制作の依頼が入れば、デザイン制作に加え、ウェブサイト(制作)や就活イベントへの参加なども提案する。『顧客が最終的に求めているのは、印刷物をきれいに早く作ることではなく、生徒を集めること。ポジションを顧客視点に変えた』」(神戸新聞、2015年1月14日付)
 これは、阪神・淡路大震災から20年を迎えるに当たって、神戸新聞に連載された経済復興を検証した連載記事の一部だ。6日間にわたって掲載された記事の1本が、トライスを紹介するものだった。
 同社は大震災を機に印刷機を捨て、ファブレス企業に転身したことで、ネットワーク化を進め、「情報加工コンサルティング会社」に転身した。その柱が、「顧客視点」という基本姿勢だ。
 一部の印刷会社のように、競争入札にはさほど関心がない。まず前提として設備投資が必要であり、さらに価格競争の世界だからだ。他社に勝つためには、設備を無限に更新し続ける必要がある。減価償却の前に製造コストを下げるために新たな設備に代えることもある。岸社長は、「入札市場にはあまり興味がない」と言い切る。
 同社が顧客視点を重視するようになったことから、顧客側から「何かいいアイデアがないか」と、他社に先んじて相談を持ち込まれることもある。「来年はこういうことをしたい」と、リピーターになってくれる顧客も多い。
 営業面でも、1顧客から1つの契約ではなく、2つの契約を取ってくることを目指している。たとえば、印刷をベースにしながら、それに加えて動画配信サービスも提供するといった「横展開」型の売り方だ。
 岸社長は、自社について「弱小企業だと思っている」と話す。現在の従業員数は15人だが、これを50人や100人に増やす気はないと言う。「設備を持ったり組織を大きくしたりすると外部環境の急速な変化について行きにくい」として、「スモール経営」を貫く考えだ。その上で、絶えず優秀な協力会社とのネットワークを構築ができるかがカギを握る、と語る。同社はプロデュース力を備えた高利益率企業として、顧客の成長発展を支援し、ひいては社員を幸せにすることを目指している。

株式会社永田屋

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 永田屋(田中大輔社長、本社相模原市、資本金5000万円)は、首都圏相模原市(人口72万人)、町田市(人口43万人)の115万人口を持つ2都市で、トップシェアの葬祭ビジネスを手掛ける。創業109年の長い歴史、それによる知名度、顧客の信用度に裏付けられ、着実に企業成長を続けている。
 それでも、新型コロナウイルスの感染リスクの高まりを受け、葬儀が行われても会葬者が感染を懸念して会葬出席を自粛、といった形で経営面に影響が出てきた。このため、2020年に売上高、利益とも一定水準を確保したものの、減収減益決算を余儀なくされた。必死の事業展開を行うとともに、さまざまな新しいチャレンジも行い、2021年には再び増収増益に転じた。2022年も前年を超える業績見込み、という。
 田中社長は「コロナ禍の長期化に加え、デジタル化が大きく進み、これまでとは異なる事業展開を考えざるを得ません」と述べている。

2. 具体的な活動内容

 永田屋がこの1年間で取り組んだのは、葬儀式場のデジタル化対応、20年前スタートの独自の 会員組織「あんしん倶楽部」の充実強化、物静かな葬儀式場や会食室のイメージを明るさ主体に刷新、同時に家族葬に合う新式場へのチャレンジ、また、コミュニケーション力のある若手「人財」を育成し会社に誇りを持ってもらう組織づくりなど。いずれも、それなりの成果をあげた、という。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 田中社長は、これらのプロジェクトに関して、「いずれの取り組みも互いに密接にリンクしており、今後、それらをつなげてライフエンディングサービスの総合化をめざします。そうすれば、コロナ禍に苦しむ葬儀ビジネスは新たな展開が見込めるでしょう」と述べている。
 そこで、田中社長は、コロナ禍のリスク対策を中心に据え、葬儀のデジタル化対応の強化、永田屋が強みにする会員組織「あんしん倶楽部」を通じた顧客会員へのサービス対応強化、葬儀依頼が出た場合、文字どおり365日、24時間いつでも対応できるようにすると同時に、亡くなられた人の家族、親戚関係者の深い悲しみに寄り添う形で対応する永田屋社員の「グリーフサポート」力などを磨くための組織づくり強化に注力した、という。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 デジタル化への取り組みで成果につながったのが、葬儀式場への「3Dホログラム・プロジェクションマッピング」システム導入。3Dホログラムスクリーンを使って、亡くなった人の思い出の写真や映像などを式場の壁に立体的に大きく映し出し、故人の思い出を振り返るものだが、葬儀業界でも初めてのことで、評価を上げた、という。
 田中社長は「葬儀のデジタル化はまだまだ取り組む分野が多いです。IT企業が新規参入、WEBを使って葬儀会社の紹介事業を行い、顧客と葬儀会社を仲介する新ビジネスに乗り出すなど競争が次第に激しくなっており、WEB営業も新たな課題です」と語っている。

 デジタル対応以外での、この1年間での成果としては、以下の点もポイント。
 その1つが、独自の会員制度「あんしん倶楽部」の充実強化。葬儀ビジネスに会員制度というのは、なかなかなじまないのでないか、と考えるのが普通だが、永田屋の場合、20年前から制度化している。身内に不幸があって葬儀、という事態にすぐ対応できるようにするためにと、考え出したもの。入会金1万円で会員になれば、2親等以内の親族全員が自由に利用でき、葬儀負担も減らせる制度にした、という。
 落語家やタレント、専門家をゲストスピーカーにして葬儀のあり方や終活の仕方をいろいろ考える「終活なるほど教室」なども積極開催した。これらが評判になり、今や累計で2万世帯、8万4000人の人たちが利用している。ユニークな取り組みだ。

 また、田中社長によると、「理念経営」を前面に押し出し、社員全員で、永田屋の経営理念を共有すると同時に、会社に誇りをもって働く人材を作り出したい、という経営者の思いを具体化した。グループによる理念浸透ミーティングで意見を出し合ってどうすれば社員全体、経営にプラスになるかを話し合い、同時に伝える力の強化もめざした、という。
 「THANKS CARD(サンクスカード)」というシステムも導入した。社内でオープンな形でカードに文章を書いて感謝の気持ちを伝えあったり、グループの活動を互いに評価したりするもので、今や年間2万8000枚のカードを出し合うほど。
 企業の組織活動研究を行う船井総合研究所の「組織力診断」で、経営理念・ビジョンへの共感など8項目調査の結果、永田屋の総合評価スコアが100点満点のうち90点となり、「グレートカンパニー」評価を得た、という。
こうした永田屋の取り組みが評価を得たのか、リクルートと並ぶ就職活動支援大手のマイナビの就職人気企業ランキングで、永田屋が冠婚葬祭部門で全国第9位にランクされた。永田屋によると、専門葬儀社がランクインしたのは初めて、という。
 そのためか、2022年度の就職で新卒学生のエントリー数が1050人にのぼった。永田屋は2018年度から新卒採用制度を導入しており、2021年度の新卒採用10人を含め、この5年間で39人が入社している。葬儀ビジネスに革新をもたらす取り組みが学生の評価対象になってきた、と言える。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 田中社長は現在、46歳で、若手経営者として、さまざまなことにチャレンジする年代。中央大法学部卒業で、学生時代から弁護士をめざして司法試験に挑戦したが、4回目の受験失敗時に永田屋を経営していた実父から「経営を引き継ぐつもりで手伝ってくれないか」との声掛けがあった。悩んだ末に弁護士の道を断念、葬儀ビジネスに転身した、という。
 7年前に実父にがんが見つかり、治療専念からわずか5か月で急逝した。その際、葬儀に1500人の弔問客が訪れ、別れを惜しんでくれたのを見て、実父は職人気質ながら、葬儀を通じて地域に貢献していたことを知った。田中社長は、その精神を受け継ぎ、社長就任で新たな葬儀ビジネスへのチャレンジをめざすことにした、という。
 田中社長は「経営を引き継いでみると、なかなか大変で、必死で経営を学びました。経営の1つのゴールは『理念経営』です。経営の理念を明確にして、社員全員に、それを伝えて浸透努力をすること、同時に『三方よし』精神で、お客さま、社員、地域社会がうまくつながって三方よし、となるようにしよう、と考えました」と述べている。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 永田屋が経営面で注力した点は、すでにレポートしたとおり。
 田中社長が苦労した点に関しては、社長就任後、5年ほど前まで、若手のみならず中堅幹部の離職が相次いだこと。その原因は、田中社長が自分の正しさばかりを押し出し、結果的に「聞く耳」を持てていなかったこと、その離職に歯止めをかける努力が十分でなかった、と感じたことだ、という。
 そこで、田中社長は、社員たちに自分が会社を通じて、どうなっていきたいかを考えてもらいながら、社員全員と意識共有できる経営手法に改めることが重要だと判断した。さまざまな取り組みへのチャレンジが次第に実り、やっと経営に手ごたえを感じた、という。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 田中社長は今、2050年までに、日本一のライフエンディンググループをつくる、という永田屋経営の将来構想の具体化に踏み出している。
 具体的には「あんしん倶楽部」の会員を対象に、会員の人たちの医療や介護ニーズに対応して、介護施設の紹介や介護人材の紹介といった紹介ビジネスを事業展開、その関連で介護食の宅配サービスも手掛ける計画でいる。そのため、それらの関係の企業との連携、場合によっては企業のM&A(合併、統合)を行うことも計画している、という。
 また、家族葬ニーズの高まりに対応して、すでに進めつつある家族葬の施設の充実化をはかり、ホテルのスイートルームのような、ゆったりとした会葬を行えるシステムづくりをめざすこと、葬儀後に不要になる不動産の処分など終活にも積極対応するため、関係企業との連携も行う。これらによって、ライフエンディングサービスの総合化をはかり、2050年までに日本一のライフエンディンググループをつくりたい、という。
 田中社長によると、永田屋は無借金経営で来て、安定した財務基盤を持っていること、そこで、相模原市や町田市地域のNO.1企業という立場にとどまらず、高齢社会時代のライフエンディングサービスの総合化に対応するため、拠点数も増やしていきたい、という。
 これらの永田屋の経営ビジョンに関して、田中社長は、「10年後に従業員数300人(現在は120人、うちパートタイマー60人)に広げると同時に、拠点数も25(現在は8拠点、式場数15)に拡大、売上高も一気に100億円企業にしたい」と抱負を述べた。

株式会社ムラタ溶研

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 すでに前回認定時のコア技術である”狭窄ノズルでの進化系TIG溶接”(「狭窄ノズルを使用した極薄板突き合わせ溶接=進化形TIG溶接」)関連の商品・機材(日本、アメリカ、ドイツ、中国、韓国で特許を取得している技術を使用)では、高難度のフープ材の極薄板突合せ溶接等を「溶接の知識を全く持たない人材が30分ほどのレクチャーで完全に接合できるようになる」ものとしてフープウェルダー機が事業や収益の大きな柱となり、多くの産業界、メーカーからの需要に応え、顧客の製造業の会社からのリピーター需要も堅調に推移してきた。
 こうした中、2020年よりのコロナ渦の状況の下でのDX(デジタルトランスフォーメーション)進展などに絡む、半導体、PC、スマホ、タブレット等の通信デバイス需要の増加と生産性の向上が喫緊の課題となり、さらに製造現場でもコロナ感染対策上のリモート化や製造プロセスの自動化、各種部品の軽量化等の製造過程でのさらなる生産性向上のニーズが高まり、TIG溶接技術の自動化の必要が急激に迫られていた。
 すでに自動車関連企業であるデンソーから「電気自動車モータコアプレス加工ラインの工場設備と連携して完全無人化によるフープ材供給ができないか」との打診があった中、昨今の経済・社会環境から、完全無人化による自動化への取り組みが一層加速することとなった。

2. 具体的な活動内容

 完全自動化の技術・システムを達成することができた。世界初の装置であり、(日刊工業新聞の1面にて報道・紹介された)需要の先端を行く電気自動車生産システムの加速に貢献することができた。

【モータ・電子部品材料全自動供給装置 MFW-500FTA】という商品を実用・実装にこぎつけた点が具体的な活動であり、今回の認定応募の具体的成果を伴った理由である。
(以下、装置等写真を掲載)

*モータ・電子部品材料全自動供給装置 MFW-500FTA
*モータ・電子部品材料全自動供給装置 MFW-500FTA
*溶接接合結果では完全な気密接合を達成。全くズレなく無人全自動で接合が行えていることを確認。
*溶接接合結果では完全な気密接合を達成。全くズレなく無人全自動で接合が行えていることを確認。

 極薄板の突合せ溶接を可能にする核となる技術を確立したのち、今回の事業展開の主眼は、その技術を製造業の多種多様な生産システムにどう取り入れるか、IoT(インターネットオブシングス=製造現場を含むモノのインターネット化、製造工程や現場生産でのデジタル制御・統括など、製造タイム管理・効率化など含む概念)や生産製造分野でのDXとも関連し、様々な状況での自動化が今後の展開の重要なテーマとなる。

———————————–
(その他の自動化開発例)
【エアチューブとばねを組み合わせた独自機構のクランプ部を開発】

極端な曲げ加工でも破断しない極薄板の円筒溶接を実現。
極薄長尺板 水平自動溶接装置「MSW-1100L/C」

世の中に広く普及しているベローズ管は空調・排気で衝撃・動作・曲げを吸収するもので、極端な曲げ加工を必要とするため、薄板になるほど接合が破れやすく、十分な金属どうしの溶込みを得るため0.2mmtまたはほとんどの場合それ以上の素材厚さが必要であった。空調・排気関連では破断や亀裂等の発生は機能を致命的に失うため、薄肉化接合が可能になれば、社会での使用箇所が多いため、軽量化や耐衝撃性、材料の削減、運搬の簡便さなど大きなメリットが見込まれる。

第1回企業価値発展大賞 ノミネート法人
第1回企業価値発展大賞 ノミネート法人
第1回企業価値発展大賞 ノミネート法人

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 すでに提供している「極薄板突合せ溶接」は、主にモバイル・携帯電話などの電子部品、センサ家電、電気自動車など先端分野のプレス材料供給に利用されている。製品製造に関する技術は、個々の生産のスピードアップや品質向上につながるが、材料供給の技術は生産システム全体に寄与し、大量の製品数に影響を与えることができる。毎分数1000個の生産を行うプレスラインにおいて30分~1時間の材料通し直しによる生産ダウンは年間で見ると膨大な損失であり、それは結果として、製品コストや国際競争力に跳ね返る。
前回の応募時は、それまでは不可能だった最薄40μmの溶接接合によるプレスライン材料供給について、開発した進化形TIG溶接法により達成できたものである。また、フープウェルダーという汎用機を用いてこの溶接法を市場に供給している。
しかし、生産設備は各分野、各工場固有のものであり、フープウェルダーでカバーできない場合に進化形TIG溶接法をどう既存の設備に実装/埋設していくかが肝要になる。以上が、ムラタ溶研が今回、“前回応募技術の自動化に注力する”ことの目的・背景・経緯である。 

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 完全自動化・無人化供給を実現した「MFW-500FTA」は新聞記事にあるようにモータコア生産ライン停止ロスが15%から5%に削減された。本装置導入における経済効果は、

  • 材料ロス削減/作業時間短縮に対する経済効果:
    人の交換による材料ロス=13m 本装置0.5m (13m-0.5m)×10回(1日交換数)×200日稼働=25,000m材料ロス削減。材料費用を200円/mとした場合、25,000m×200円/m=5,000,000円の経済効果。
  • 時間短縮経済効果:
    (従来交換作業時間 20分/回-本機約1分)×1ライン×10回(1日交換数)×200日稼働=633時間。プレス工時給2,167円×633時間=1,371,711円の経済効果。ロス削減・時短経済効果の合計は 6,371,711円(年間)
    装置価格は3,500万円なので、生産増を加味すると数年以内の回収が充分可能。

 最近開発されたベローズ管用の水平自動溶接装置「MSW-1100L/C」ではこれまで出来なかった150μm厚のベローズ管成型を実現。採算性や回収期間については導入先企業の従来状況との比較によるが、当社試算で一般円筒溶接装置と比較して年間約450万円の人件費費削減効果に加えて年間504万円分の生産性向上(6,000円/h×7h/日×240日稼働×50%生産性向上=504万円)で装置費用2,000万円の回収期間は約1~2年と見込まれる。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

=ものづくりの根幹はすでに人の手による「匠の技」ではなく、高品質な製品を高速・多量に安定生産できる仕組みづくりへと移行=
 この趨勢は、21世紀の製造業の状況から不可逆的で一層進むと考察する。
安価な人件費の国への生産拠点移転は、「コストが安くても、品質・要求が満たせない」という壁に当たり始めている。世界の人々が求める製品の要求水準は、すでに人の手による努力で達成できるものではなく、高度に自動化された生産設備により支えられている。そのため、ものづくりの根幹はすでに人の手による「匠の技」ではなく、高品質な製品を高速・多量に安定生産できる仕組みづくりへと移行されている。
 ムラタ溶研は社是として「誰でも、簡単に、高品質溶接を」を一貫して掲げてきた。つまり、高度な自動化により溶接における高難度課題を人の技量に頼らずに解決することを製品開発の主題とし、それは、IoTによるものづくりや働き方改革といった昨今の社会的ニーズにも合致する。低価格競争と長時間労働に陥ることなしに、品質の担保と生産性向上の両立を実現する。趨勢  高難度と言われる極薄板の突合せ溶接でこの自動化を追求し、産業界に貢献したい。日本が、高付加価値を持つトップランナー製品の生産拠点となるように、自分たちの持つ技術を役立てたいとしている。 

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 現在取り組んでいる生産システムに対する自動化は、生産拠点ごとの個別課題が多い。製造業におけるクリエイティブな部分であり、汎用的な解決法では達成が難しい。こうした中で自動化開発を行うには、技術的な指揮者、個々の技術者、プロトタイプの製造技術者間のコミュニケーションが大切と考える。この点を重視し、ムラタ溶研は社屋を増改築し、技術者をワンフロアに集め、コミュニケーションの活発化に注力している。自動化を達成する方法はひとつとは限らない。確実性、効率、コスト、など複眼的視点が必要であり、ある技術者が抱えている課題がひとつのコミュニケーションで解決に向かうことも少なくない。
 米Google社がリモートワークから社員出社へ方向転換をしたように、人と人とが会い、会話することには高い効果がある。会社設立37年で、大切なのは蓄積された経験・ノウハウ・ソリューションを一人のものとせず、共有し新たな知見を加えられる環境を整えること、と痛感している、という。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 ムラタ溶研が事業で最も大事と位置付けているのは、製造の生産性向上に寄与する溶接等の分野での高度かつ需要規模の大きな技術・装置・製品へのこだわりである。
 “ものづくりの根幹はすでに人の手による「匠の技」ではなく、高品質な製品を高速・多量に安定生産できる仕組みづくりへと移行”との考え方は、会社設立当初より重要テーマと位置付けており、自動車分野、PCやスマホ等情報通信関連機器分野、半導体関連等の生産設備、家電製品、建設関連製品他、様々な分野では、昨今、軽量かつ強靭で、微細化、極薄化に関して求められる生産技術の需要はさらに高度化し、また自動化が一層求められると考える。それは、コロナ渦で急速に進んだDX推進、テレワークなどの働く環境の大きな変化と相まって、また、ドイツのインダストリー4.0等の新機軸新地平の生産/製造の在り方や概念、製造業でのIoTの進化などの中、多様な需要の展開を予想する。
 こうした中、ものづくりの根幹は既に人の手による「匠の技」ではなく、高品質な製品を高速・多量に安定生産できる仕組みづくりへと移行しており、この点は「日本のものづくり」の次の位相の確立と国際競争力強化の要諦であることは間違いないと考えており、ムラタ溶研社の”唯一無二“とも考える狭窄ノズル使用のTIG溶接技術が、材料/素材利用の生産現場でさらにニーズが増すと考え、一層需要増、発展が期待される。

株式会社大和製作所

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 2021年3月期決算は、コロナウイルス感染拡大の影響で外食の機会が減ったことから大打撃を受け、売上高が国内は半分、海外はほぼゼロに落ち込んだ。

2. 具体的な活動内容

  • 世界初の店内用の半熟卵自動殻剥き機「ゴールデンエッグ」を開発、2020年10月に発表した。シンガポール・ラーメン学校の生徒の要望を受けて開発したもので、海外での売れ行きが好調。半熟卵の殻剥きはロスが多くなりがちだが、ゴールデンエッグを使えばロス率を大幅に低減できる。殻剥きのスピードも、手作業だと1個につき約20秒かかるが、ゴールデンエッグだと約6秒で済む。なお、大和製作所は「1週間でプロになれる麺学校」をコンセプトに、うどん、そば、ラーメンそれぞれについて麺学校を国内外で開催している。
  • 世界初のラーメン玉丸めとラップ包装を一体化した小型自動包装機「玉三郎」を開発し、2021年7月に発表した。
  • 水捏ね、包丁切りの十割蕎麦製麺機「坂東太郎プラス」「菊次郎」「舞姫プラス」(3つで1セット)を開発、2021年7月に発表した。
  • ベストセラーかつロングセラーの小型ラーメン用製麺機「リッチメン」の全面リニューアルを行った。
  • オンラインやSNSを通じて海外顧客向けに機械のデモや日本の麵料理を発信した。YouTubeでは週1回のペースで海外時間に合わせてライブ配信している。リモートで個別化にも対応している。
  • YouTubeでオンラインセミナーを実施。要望や質問に回答するとともに、店舗経営についての考え方などを発信している。
  • e-Learningサービスを2021年11月に発表。麺ビジネスの支援のため従来行っていた麺学校の講義内容やYouTubeでの発信内容について、実際の調理や機械操作の映像、アニメーションを織り交ぜながら解説している。無料の「トライアルコース」と、有料の「ラーメン初級コンプリートコース」を提供している。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 コロナ禍の中、銀行に一切頼らなくてもすむよう、財務力強化の必要性を認識した。3年後には上場できる経営基盤の構築を目指している。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 「ゴールデンエッグ」「玉三郎」「坂東太郎プラス」「舞姫プラス」「菊次郎」を相次いで市場に投入した。コロナ禍を受けて麺学校への出席が困難になったため、YouTubeを通じて支援を継続。それをe-Learningの導入につなげた。
 世界的に電子部品の供給が困難になったが、同社はインバーターを中国アリババから購入するなど、海外市場から直接調達し、現在、半年分の在庫を確保している。戦略的に動いたことが奏功した。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 藤井薫社長がe-Learningなどソフト面に力を入れるのは、ハード市場の成長は直線的なのに対し、デジタル市場は指数関数的に伸びるという認識があるからだ。藤井社長は、かつて新興企業であった米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック=現メタ、アップル)がIT技術の開発に徹底的に取り組んだ結果、急成長を遂げた例を引き合いに、デジタル化の利点を強調する。同社としては、日本の食文化を代表する麺と、メニューのデジタル化などITとの融合を進め、さらに世界に広げることを目指している。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 海外だけでなく国内においてもデジタル化を進め、YouTube やSNSを活用した情報発信、e-Learningビジネスを強化している。その背景としては、コロナ禍で売り上げが落ち込み、製麺機の販売だけでは経営が厳しい状態になったことが挙げられる。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

現在注力しているe-Learningはまだ導入したばかりだが、徐々に売れ始めている。将来はサブスクリプション方式に移行することを目指している。
 同社はe-Learningなどソフトを重視しており、3年後、もしくはそれ以前にハード-ソフトの売り上げ比率を半々にすることを狙っている。同社は小型製麺機のシェア40%と、業界トップのモノづくり企業だが、同時にハードとソフトをつなぐメディア企業でもあるようなビジネスモデルを構築中だ。
 コロナ禍の前からは、麺ビジネスを始めたい人には製麺機を販売し、麺を販売・消費する人には半生うどんを販売、麺や麺ビジネスについて学びたい人には麺学校を開催するという、「麺の総合ソリューション企業」になることを目標に掲げている。
 2022年3月期の決算は、売上高が前期比ほぼ倍増の17億~18億円、経常利益は2億~3億円と黒字転換を見込んでいる。
 大和製作所の創設は1980年。その後、1993年にソウル出張所、2015年にシンガポール現地法人、2016年にシンガポール・ラーメン学校、2019年にオランダ・アムステルダムに現地法人、米ニューヨークに現地法人を設立した。経営理念の一つに「日本の麺文化を世界に広げる」があり、海外市場を重視している。現在の国内、海外の売上高比率は6対4だが、将来、これを逆転させることを目指している。

吉川グループ

Ⅰ. 最近1年間に優れた成果を上げた特徴的価値

1.1年前の状態

 日本国内でも金属加工集積地として有名な新潟県燕市でステンレス金属加工を手掛ける中核 企業、吉川金属株式会社(吉川力社長、資本金1000万円)を中心に関係企業の株式会社ヨシカワ、カットウエル株式会社の3社でスクラムを組むのが吉川グループ。

 吉川グループは、かねてから事業活動を通じて企業の社会貢献を果たす、ということを経営理念の柱にしてきた。中でも2021年1年間の新たなチャレンジ、取り組みが吉川グループの方向付けに広がりを持たせるきっかけになった、という。
 代表の吉川氏によると、そのきっかけは、日本全体で異常気象による暴風雨の多発や河川の氾濫など自然災害が際立ったこと、また長期化する新型コロナ感染リスクの高まりが国民に生活不安をもたらしたことだ。吉川グループは、自らの技術力の「強味」を生かして、「防災」「防疫」へのチャレンジをする必要がある、と判断し、企業行動に移した。それらのチャレンジが、結果として、新たな商品化につながったばかりか、社会実装を通じて社会に貢献した。

2. 具体的な活動内容

 まず防災に関して、河川氾濫や冠水後の復旧・復興時に、災害現場で土砂の撤去や移動運搬が大きな困りごとになっていることを知った。そこで、グループ企業の株式会社ヨシカワの実現屋事業部という、ユニークな名前の事業部を中心に、独自の土砂運搬機を開発した。
 吉川グループとしては、自信の作品だったが、評価を問うため、2021年8月に大阪で開催の「自然災害対策技術展」に出展した。同時に、社会実装の形で、災害復興現場で業務に携わる自衛隊、土木関係企業、自治体災害対策関係者に土砂運搬機の試作機を使ってもらい、使い勝手のよさや悪さ、改善点は何かなどに関してアドバイスを受けた。それらのアドバイスなどをもとに改良に取り組み、2022年中に製品化を終えて、災害現場に役立てたい、という。

 同じヨシカワ実現屋事業部とグループ企業のカットウエル株式会社が防災の観点から共同開発したエレベーターの防災グッズ収納キャビネットも評価の対象になっている。
  吉川グループによると、災害発生時に高層ビルのエレベーターが突然、停止を余儀なくされてしまった場合に備えて開発に取り組んだ。エレベーターの一角に防災グッズ収納キャビネットを据え付け、災害時に、非常用の飲み物など防災グッズを取り出して対応するようにすれば、防災対策になるのでないかとの判断となり、試作品をつくった。すると、複数の大手エレベーター企業から「取り組みの発想が面白い」と引き合いがあって、今やビジネスチャンスになっている、という。
 ヨシカワ実現屋事業部とカットウエルは、防災対応にとどまらず防疫に関しても成果をあげつつある。具体的には、ヨシカワ実現屋事業部が、ウイルスや病原菌などの侵入対策に使われる事業場や工場の室内履きの靴に関して、滅菌性に優れたステンレスを活用した滅菌シューズボックスを開発、またカットウエルも同じく事業場内の洗面所でウイルス飛散防止のために使われる特殊なペーパータオルを清潔にする補助用具「ペーパー・クイックリー」を開発した。
 これらの製品を2021年12月に千葉県で開催された医薬品・医療品製造設備の展示会「インターフェックス」に出展した。現場で社会実装して改善点のアドバイスなども得た。現時点で、吉川グループは手ごたえを感じており、2022年に商品化し、世の中にアピールする、という。

3. 経営におけるこの活動の目的・背景・経緯

 祖父が創業した吉川金属を軸にした吉川グループ3代目の吉川代表は、経営勉強を兼ねて若い時期に出向した大手商社住友商事での8年間の現場営業経験などをもとに、2006年の代表就任後、吉川金属、ヨシカワ、カットウエルのグループ3社の事業を組み合わせてシナジー効果を出し、独自のコア事業化をめざす現在の経営路線をつくりあげた。

 吉川代表によると、3事業は、吉川金属が中核で、金属加工集積地の燕三条でのステンレス製 品製造に最適な90種類にのぼる金属素材を地元企業向けに供給するミッションを担う。2つめの事業は、主として製造設備を持たない開発型のファブレスメーカーの生産を受託するOEM(他社ブランド製品を受託して生産)事業だ。ヨシカワ実現屋事業部やカットウエルが担う。3つめは、ヨシカワのライフスタイル事業部が担い、消費者の高いニーズに対応、端的にはワンランク上のステンレス製の家庭用調理用品などを開発、付加価値の高い消費者向け商品化を行う、という。
 吉川代表は「3事業は、互いの取り組みが微妙に関連するので、一本化すればいいでないか、 という考え方もある。しかし、一本足だけで立っていると、さまざまな外部の環境変化に対応できない。むしろ、経営の柱を3つ持つ三本足経営の方が、互いに連携して、それぞれの企業の持つ強みを生かしてシナジー効果を上げるのにベストだ、と判断した」と述べている。

4. 活動によって得られた最近1年間の成果

 吉川グループは、「これをつくってくれ」「これが欲しい」という顧客企業の要望などにもとづいてこれまでグループ内のヨシカワ実現屋事業部やカットウエルが中心になってOEM(他社ブランドの製品の受託生産)で来た。この取り組みが事業の柱の1つであることは間違いない。
 しかし、この1年間、たとえば災害被害に対応して「これがあれば世の中の困りごとに対応できるのでないか」と、土砂運搬機を試作製品化して展示会に出展する新たなチャレンジを行った。その際、災害対応現場で活動する人たちのコメントを聞き、ニーズをつかみ製品化に落とし込んでいくことにも取り組んだ。これらの取り組みによって「開発型自社製品」づくりのノウハウを体得した。このチャレンジで、吉川グループの新たな方向付けができた1年だった、という。

5. この活動に対する経営者の志や情熱

 吉川代表は、「環境変化に伴って発生した世の中の新しい不安や心配事などに対して、企業が経営の論理だけで動くのでなく、むしろ、企業として何ができるか、何が社会貢献になるかを考え、そのために必要な、たとえば災害対応型の土砂運搬機にチャレンジした。
結果は、災害で被害にあって苦悩しておられる多くの人たちに貢献できた。新潟の燕三条の吉川グループは面白い取り組みをする企業だ、という評価になった。地方区レベルの企業が志の大きさで一気に全国区の企業になったようなものだ。私たちとしては、これが大きな自信につながった」と述べている。

6. 特に注力した点、苦労した点などのエピソード

 吉川代表は、グループに大変化をもたらしたチャレンジに関するエピソードをこう述べている。
 それによると、吉川グループは、これまで、顧客の企業から要望や注文を受け取って製品化していく典型的なOEM型開発の取り組みだった。ところが、自然災害など環境変化によって発生した「不安」「不便」をTVや新聞記事などから抽出、また災害現場に出かけてニーズを探り、試作品をつくりってマーケットにもっていきヒアリングを行ってブラッシュアップする作業を繰り返した。
 この「独自開発型ものづくり」は、消費者のニーズを敏感にかぎ取って製品化する家庭用調理用品以外には全く初めてのこと。このため、戸惑いも多く、経営のみならず開発、あるいは生産現場も大きく悩んだ。それを克服することにかなりの時間を要したが、今や自信になってきた、という。

Ⅱ. 応募テーマと法人全体の将来構想

 吉川グループ代表は、ステンレス金属加工の集積地、燕三条について、「全国で流通するステンレス薄板は月ベースで6万トン、そのうち燕三条の比重は6000トン、言ってみれば国内マーケットの10%シェアでしかない」と位置付け、そうした中での吉川グループの今後について「大量生産、大量販売によるスケールメリット、ロボット導入による無人化、機械化での収益性向上、生産性向上といった経営をめざすのは極めて難しい。しかし吉川グループには中核企業としての自負があり、しかも磨き上げた強味ともいえる技術力、製品開発力がある。これを武器に、多くの企業や消費者のニーズに応え、『強く必要とされる企業体』になっていく」と語っている。
 ところが、インタビュー調査の中で興味深かったのは、吉川氏には経営者としての心意気を感じさせるものがあった。吉川氏は「オンリーワンの技術をもとにグローバルニッチの『小さなNO1シェア』を数多く持つ企業体になって、グローバル展開をめざす」と語っている。
 吉川氏によると、吉川グループで生産する調理用の「雪平鍋」は日本国内のみならず世界の主要国でも、その品質のよさなどが評価され、世界全体で50%超のトップシェアを持つ。同じようにステンレス製の移動棚、書類ボードなども日本国内で吉川グループだけの独自製品となっている。そこで、これらの強味を生かして『小さなNO1シェア』をめざしたい。このためにも研究開発投資、人材開発投資も続け、存在感のある企業をめざす、という。