株式会社守谷刃物研究所 – 企業価値協会 Skip to content

株式会社守谷刃物研究所

株式会社守谷刃物研究所

株式会社守谷刃物研究所
島根県安来市恵乃島町 113-1
TEL: 0854-23-1311
http://www.moriyacl.co.jp

髙橋満

代表取締役社長 守谷 光広

2021年 認定

代表取締役社長 守谷 光広
創業:1953年
主たる事業:特殊鋼ヤスキハガネ部品の製造販売

特殊鋼ヤスキハガネの特性を活かし自動車、航空機、半導体など幅広く部品供給。主力の車載油圧ポンプ用ベーンは世界シェア20%以上とNo.1、多様な加工機と真空焼入れ炉を駆使した一貫体制がサブミクロン単位で精度を極め、高い信頼を集め、更にロケット、人工関節など用途が拡大。様々な分野から社会を支える特徴的価値を有すると認定。

特徴・差別点等

車載用「ベーン」で世界トップシェア

「ヤスキハガネ」の特性に精通

1. 社 歴

 現社長・守谷光広の祖父である守谷善太郎が1953年、守谷作業所として創業。善太郎は日立製作所安来工場刃物研究所の責任者でもあった。日立から日立金属が独立した際に、刃物研究所は閉鎖されようとしたが、日立金属から刃物研究所の名称を受け継ぎ(株)守谷刃物研究所として新会社を設立した。
 守谷刃物は日立金属が20%出資する関連会社。特殊鋼のブランドである「ヤスキハガネ」に精通しており、その強みを生かしてさまざまな用途に用いられる特殊鋼による部品を製造する金属メーカーである。ちなみに会社名に研究所と付いているが、研究機関ではない。
 売り上げの68%は自動車のパワーステアリングやCVT、多段変速のトランスミッション等に使用される油圧ポンプであるベーンポンプに組み込まれる部品「ベーン」で、世界のトップシェアを占めている。
 社是である「和合努力」のもと、経営理念は、「ヤスキハガネ」の仕事を通じて顧客企業に喜ばれ、世界の発展と繁栄に貢献することだ。
 守谷光広社長は「コロナ禍などの影響でこれからの社会は変わっていくと思う。社会が変われば消費者や顧客企業が求める物も変わる。
 我々はさまざまな物を作ることができるといいう自負を持っている。今後も顧客が求める物を作っていきたい」と抱負を述べている。

2. 特徴・差別化

 自動車用「ベーンポンプ」の中の主要部品である「ベーン(羽根)」の製造が守谷刃物の現在の主力事業だ。守谷刃物はベーン製造で世界の20%のシェア、日本で40%近いシェアを持ち、他社の追随を許さない。
 ベーンは「油圧」を創出する部品だ。長さ2センチ、幅1センチ、厚さ1~2ミリほどの薄板状の特殊鋼である。
 ベーンポンプ製造の際には、油が漏れないよう精度よく組み上げる技術が求められる。同時に微妙な「隙間」も必要だ。というのも「隙間」が無いと焼き付きが発生するからだ。逆に。「隙間」が大き過ぎると油漏れが発生し、装置が機能しなくなる。そのため、使用されるベーンは寸法を精密に安定して製造する能力が最も重要になっている。

自動車搭載用ベーン
自動車搭載用ベーン
自社開発の車載用ベーンの平画面像機
自社開発の車載用ベーンの平画面像機

3. 高い信頼性

 守谷刃物は0.1ミクロン(1メートルの1000万分の1)の精度で部品を製造できる。部品の信頼性を高めるために、自社で製作した自動検査装置で全数検査も実施している。また、画像検査も行い不良品を除去しており、同業他社を大きくリードしてきた。

4. 進んで試作を受注

 顧客企業からベーン試作品の製造要請があっても他社では製造に手間が掛かるという理由から、断るケースがほとんどだ。しかし、守谷刃物は、率先して試作を受注する。そのことで顧客企業の信頼を得て量産化へとつなげてきた。同社は、試作専用のレーンを保有しているのも特徴で、他社との差別化につながっている。

5. 刃物、ロケット、人工関節

 古来、島根県の安来地方は良質な砂鉄と炭が豊富なことから、「たたら」と呼ばれる製鉄技術で「玉鋼(たまはがね)」が作られていた。安来の玉鋼は全国に送り出され、各地で折れずに曲がらない日本刀が作られた。ヤスキハガネは、焼き入れ、焼き戻しという玉鋼の熱処理などの伝統を基にしている。そこにクロム、ニッケル、モリブデン、マンガン、バナジウム、タングステン、コバルトなどの特殊元素を組み合わせ、部品用途や目的に合った硬さや靱性を備えているのが、守谷刃物が作る特殊鋼部品なのである。

6. 何でも作る!

 「ヤスキハガネ」ブランドのもと、物を切る刃物なら何でも作れるのも同社の〝売り〟だ。高い精度が求められる「ワイヤーハーネスカッター」、ゴムリング切断用「カットメス刃」、ハーブのみじん切りなどに使われる「みじん切り包丁」―など何でもござれである。
 宇宙に打ち上げられたロケットから人工衛星を切り離すための「ロケットカッター」など、何と航空宇宙分野でも貢献している。
 さらには、チタンをベースにした材料を用いて医療用「人工関節」も製造。高い精度で、鏡面磨きで仕上げられた人工関節は、患者さんの動作を補助。医療分野でも大活躍中だ。
 造幣局で硬貨を製造する際に、正確に打刻する「コインパンチ」、耐久性や耐蝕性が求められる「ボートレース用プロペラシャフト」も守谷刃物の製品だ。守谷刃物研究所は主力のベーン以外でも多種多様な特色ある特殊鋼部品が作れるメーカーでもある。

プロファイル研削盤
プロファイル研削盤

7. 落雷から風車守る

 地球環境保護策の一環として世界で風力発電など再生可能エネルギーの利用が盛んになってきた。そうした機運を受けて、守谷刃物は落雷から風車を守るシステムの開発にも取り組んでいる。
 風力発電の基幹部品である「ブレード(羽根)」は、落雷によって破損し、機能不全に陥るケースが時にある。洋上風力発電などが増加していることもあり、「ブレードのメンテナンス代」は、高騰している。洋上での作業が技術面で難しいことや、高度作業に特殊車両が必要なためだ。

 そこで守谷刃物は、比較的安価に落雷被害を低減化する落雷被害低減化システムを開発した。まず、「らいじん君」である。らいじん君は、FRP(繊維強化プラスチック)製などのブレードの表面に落雷時の電流を集める「アルミテープ」を数本貼り付け、電流を受け止める「レセプター」経由で地面に電流をアースさせて放電する仕組みだ。
守谷刃物、松江高専、島根県産業技術センターと共同開発した。

らいじん君
らいじん君

8. 「雷伝」新開発

 被雷したアルミテープは焼けるが、残留炭化物が電流を誘導するため、しばらくは使用可能。だが、守谷刃物はアルミより耐久性・耐熱性が高い金属材料はないか探した。
 その結果、非常に耐熱性が高く、高電流に耐える金属チップを開発、それをつなげて、シリコーンゴムで固定してテープ状にした「雷伝」の開発に成功したのだ。今後、フィールドテストを重ね信頼性を確認、発売したい考えだ。

9. 放電プラズマ焼結

 実は、「らいじん君」に使用される材料は、守谷刃物が保有する放電プラズマ焼結装置(SPS)で作られた。
 焼結とは、粉末の金属を使って成分が均質の合金を作ること。合金は、焼き、融解、冷却の各段階で成分が偏る問題を抱えているため考案された。大型SPS2台、中型SPS1台を保有し顧客企業のあらゆる「焼結」ニーズに対応できるとしている。
 これだけの設備を保有して、受託焼結をしている企業は存在しない。そのため守谷刃物研究所は、このSPS装置を利用した新しい分野にも挑戦している。

SPS放電プラズマ焼結装置
SPS放電プラズマ焼結装置

渡部 道雄
共同通信 元編集委員