ハードロック工業株式会社 – 企業価値協会 Skip to content

ハードロック工業株式会社

ハードロック工業株式会社

ハードロック工業株式会社
大阪府東大阪市川俣1-6-24
TEL: 06-6784-1131
http://hardlock.co.jp

代表取締役社長 若林 雅彦

代表取締役社長 若林 雅彦

2021年 認定

代表取締役社長 若林 雅彦
創業:1974年
主たる事業:ネジの開発・製造・販売

「絶対ゆるまないネジ」を開発、世界からその性能が認められており、溶接の 代替となる再使用性、過酷な環境や長寿命への対応、強く締付けられない 箇所や素材へも使用できる等、顕著な商品特徴を有する。3000種類、年間 2500万セット納入し、一度の緩みトラブルもない品質創造の経営は、世の中 の安心安全を支える見事な特徴的価値を有すると認定。

特徴・差別点等

1. 緩まないネジ

 ハードロック工業株式会社(本社・大阪府東大阪市、資本金1000万円)は、世界的に知られた緩み止めネジの開発製造販売を 行うユニークな中小企業です。初代社長で現在会長の若林克彦氏が1974年に創業し、同氏が発明した「ハードロックナット」を 製造、販売しています。売上高は約20億円、従業員は90人で、創業以来、黒字決算を継続しています。製品は標準品から特注 品まで3000種類に及び、世界で年間2500万個以上が使われています。
 ネジは機械などを動かしていれば緩んでくるのは避けられないのが常識でしたが、若林会長は「緩まないネジ」を目指して研究 を続けてきました。同社の創業前にも緩み止めネジを考案して会社を共同経営していましたが、会社を譲り、それまでのゆる み止めネジとは全く機能が違う製品「ハードロックナット」の事業化のために、改めて会社を起こしたのです。

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2. 鳥居の楔がヒント

 激しい衝撃や振動にも緩まないネジをどうすればできるかを考えていた時、自宅近くの住吉大社(大阪市住吉区)を参拝して、鳥居の2本の柱と交差する貫(ぬき)の結合を強めるために楔(くさび)が打ち込まれているのを見て、アイデアが閃きました。古代から木造建築に用いられてきた楔の原理を金属のネジに使ってみたらどうなるだろう。 早速、ナットの間に切れ込みをいれ、ボルトとの間に隙間を作り、ハンマーで楔を打ち込んでみると、緩みは起きませんでした。
 これをヒントに凸ナット(締付けナット)と凹ナット(ロックナット)の2個のナットを用い、ボルトに凸凹ナットを順に締付けた時に、凹凸ナット間にクサビ効果が発生し、ボルト・ナットのネジ部のガタをなくすことができる「ハードロックナット」が生まれました。

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3. 新幹線に採用

 画期的な製品でしたが、当初、販売は苦労しました。ネジの緩みがなくなれば、保守点検作業が大幅に軽減でき、大事故を防止できることから、鉄道会社に売り込みを行いましたが、実績がないことから断られることが多かったのです。若林会長が発明した、「たまご焼き器」や「ペーパーホールダー」などの開発商品の販売をしながら、関西の某鉄道会社の軌道箇所で最初に採用され、その後私鉄各社からの受注が増えました。そして、東北新幹線の防音壁用に注文を受け、当時の国鉄からも採用されるようになったのです。
 次に狙ったのは新幹線車両への採用でしたが、性能は良くても事故が起こった時の責任問題から、JIS規格品でないハードロックナットを反対する内部の声も多かったのです。1987年に国鉄が民営化されることになり、変化が生まれました。鉄道の研究機関である鉄道総合技術研究所での試験で好成績を残したことから、新幹線車両への採用に漕ぎ着けました。東海道新幹線16編成で2万個以上のハードロックナットが使われ、金属疲労発生の手前である100万キロメートル走行ごとにボルト・ナットを全数交換することになり、経営的にも安定しました。鉄道向けの売上高は、国内外合わせ現在でも売上高全体の25~30%を占めています。

4. 海外でも高い評価

 海外からも注目され、2003年には台湾高鉄から高速鉄道向けに400万セットの受注があり、オーストラリアのクイーンズランド州鉄道、ビクトリア州鉄道やイギリスのネットワーク・レール社の認証を受けているほか、中国の高速鉄道車両にもハードロックナットが数多く使われています。
 2005年の7月には、米国機械学会(ASME)でハードロックナットの緩まないメカニズムの研究内容を論文として発表しました。そこで実験だけでなく解析での科学的な裏付けがなされたことで、一層、国際的にもハードロックナットの認知度は高まりました。
 採用事例は多岐に及んでおり、明石海峡大橋、瀬戸大橋などの橋梁、原子力発電所他のプラント施設、東京スカイツリーを始め、超高層ビル、自動車、船舶、住宅、産業機械、鉄塔、高速道路、産業用ロボットなど我々の生活に関係する様々なところに使われているのです。また、宇宙空間や高温、極冷環境といった厳しい環境でも緩まないため、人工衛星などにも採用されています。将来、医療や航空宇宙産業にも本格的に参入していく予定です。
 対外的な評価は年々高まっており、2009年には「第3回ものづくり日本大賞」特別賞、2010年には「第35回発明大賞」本賞、2011年には「第10回日本イノベーター大賞」大賞、2015年にクールジャパン協議会の「COOL JAPAN AWARD2015」をそれぞれ受賞し、2014年には東海道新幹線開業50周年にJR東海社長から感謝状を授与されました。

台湾新幹線

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風力発電

風力発電

超大型タイヤの締め付け

超大型タイヤの締め付け

5. 経営理念ベースの人事評価

 今や世界に誇る代表的な中小企業として知られているハードロック工業ですが、それを支えているのが経営理念及び社会的ミッションです。「心豊かな創造性を磨き、無から有を生み出し進展させる」「アイデアの開発を通じ人と企業と産業社会の発展に貢献する」「この社会は我が社の為の道場であり、見るもの触れるもの全てが我が師である」また、社会的ミッションとして「アイデアの開発を通じゆるまないネジをもって安全・安心を提供し社会に貢献する」を掲げています。毎年、年間の実行取り組みを決めており、2021年は「和を以って土台と為す!」とし、会社の土台を支えるチームワークの強化を目指しています。
 この経営理念をベースにした人事評価制度を設けています。「礼儀・規律・感謝」、「利他」、「寛大」、「調和・和合」、「プラス思考」、「忍耐力・持続力」、「好奇心・創造性」、「傾聴」、「素直・受入れ」、「実行」の10項目から一般社員、管理職の果たすべき基準を示して、評価を行っています。自分の評価の「見える化」を狙っています。社員教育も社員のレベルに合わせて実施し、企業理念と能力を高め、成果に結びつけていく人間力を重視しています。それが企業価値を高めていく源泉であると考えているのです。
 ものづくり企業として疎かにできないのが品質管理です。ISO9001:2015を取得し、国内の緩み止めナットメーカーで航空・宇宙・防衛分野の品質マネジメントシステムJISQ9100を認証取得したのは同社だけです。三次元測定機をはじめとした高性能な測定機器を揃えており、高度な品質保証体制を確立しています。
 研究開発型の企業で新しい技術、アイデアが命です。特許も20年で切れるため、新しい要素を加えた特許をいくつも重ねて出願し、継続的な性能向上を目指し、コピーできないモノづくり体制を構築しています。その為、毎月1回、開発会議を開催しています。新製品開発や新しい特許の商品化などについて、若林会長がメンターになり、自分の経験を伝えるとともに助言を与え、問題解決していく場です。新規分野にも力を入れており、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)のネジや歯科用インプラントのネジを共同開発しています。

6. グローバル展開

 世界20カ国・地域に製品を供給し、現在売上高の海外比率は約20%に達し、今後とも拡大していく計画です。そのためグローバル人材の獲得にも熱心で、既に韓国人留学生やAI(人工知能)を研究してきたオーストラリア人を社員として研究開発、海外営業に活用しています。2021年4月からは、中国市場の販売を促進するため中国人女性、さらにこれからの社内デジタル化に向けSE(システムエンジニア)の韓国人男性が入社しました。海外展開を早くから進めてきたため、2000年には英語のホームページを作り、現在、中国語、韓国語、ポルトガル語にも対応を急いでいます。

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7. コロナ禍からデジタル化で新たな展開

 コロナ禍の中で、対面式の営業が制限され、海外出張も難しくなりました。展示会での売り込みもできなくなりました。このため、積極的にZoomを活用して、リモート営業、会議を行っています。2019年10月に2代目の社長に就任した若林雅彦氏は、積極的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れています。2020年10月には新たにネジの緩みに特化した技術情報サイト「ねじ締結技術ナビ」を立ち上げました。ネジの緩みに関するトラブル相談を受け付け、トラブルの原因と対策を詳しく解説した冊子もダウンロードできます。日本語だけでなく、英語や中国語、韓国語など多言語でも対応予定で、事例紹介だけでなく、新たにインサイドセールスとしてベテラン社員を配置し、個別の問い合わせにもすぐに対応できる仕組みを作りました。コロナ禍で対面営業ができないことを逆手にとって、ネットを通じて現場で困っていることを把握し、新たな顧客開拓にも結びつけています。
 既存のコーポレートサイトと新規の技術情報サイト併せて2万人を超えるアクセスがあり、海外からの問い合わせも増えています。より詳しい説明をするために、営業担当が技術スタッフと企業訪問も行っており、ソリューション営業の土台が固まってきております。

斎藤 治
経済ジャーナリスト
甲南大学非常勤講師
元読売新聞大阪本社経済部デスク