株式会社坂東太郎 – 企業価値協会 Skip to content

株式会社坂東太郎

株式会社坂東太郎

株式会社坂東太郎
茨城県古河市高野 540-3
TEL: 0280-93-0180
http://bandotaro.co.jp

代表取締役社長 青谷 英将

代表取締役社長 青谷 英将

2021年 第2回更新認定

代表取締役社長 青谷 英将
創業:1975年
主たる事業:和食レストラン

理念「親孝行・人間大好」を貫き通し、たとえ非効率でも、 全て店内調理、女将・花子制度、家族イベントの支援など 人と手間暇をかけ三世代全員から絶賛を集める。さらに、働く人、 お客様、取引業者、地域の「幸せ日本一」を追求する挑戦と進化は 社会から強く支持される特徴的価値を有すると認定。

特徴・差別点等

1. 社是は「親孝行・人間大好」

関東平野のど真ん中。筑波山を望む茨城県西端の古河市に本社を置き、茨城、埼玉、栃木、群馬、千葉県で和食ファミリーレストラン「ばんどう太郎」や「かつ太郎」「八幡太郎」など約82店舗の外食店を展開している。社名の「坂東太郎」は日本3大河川、利根川の別称だ。

創業者は八千代町の農家の長男だった青谷洋治氏(現会長)。小学生の時、作文に「社長になりたい」と将来の夢を綴り、高校進学直前に母を亡くし、進学を断念して農業に専念。坂東市に出来た蕎麦屋で農作業後にアルバイトを始め、1975年にのれん分けで「社長」となって開業した蕎麦屋が同社のルーツだ。その後、地域密着型の和風レストラン、とんかつ専門店、ステーキハウスなど業態を広げ、事業を拡大してきた立志伝は、テレビや経済誌などでも紹介された。

株式会社坂東太郎

最大の特徴は、「親孝行・人間大好」という経営理念だ。
大阪万博のあった1970年は「外食元年」とも言われる。東京地盤のすかいらーくや西の雄と呼ばれたロイヤルが、ファミリーレストランの本格展開を始めたのは70年代初めのこと。デニーズ、ココスなど海外ライセンスを得てのファミレスも登場し、高度経済成長、モータリゼーションと共にファミレスは全国へ広がった。

坂東太郎がこだわるのが、大手チェーンとは異なる「親子孫3世代」が集える「場」の提供だ。お食い初め、一升餅、七五三、入学・卒業、結納、法事といった季節、ライフステージごとの家族イベントを重視し、文字通りファミリーが憩える和風レストランを前面に打ち出した。

店内には、孫が祖父母に手作りケーキをプレゼントするための専用厨房もあり、還暦祝い用の赤いちゃんちゃんこも貸し出す。「一升餅の翌年、店から『幸せのスプーン』をプレゼントして、お客さんに驚かれたりします」(青谷英将社長)。地域に深く根を張り、お客さんの家族を見つめる温かさが店の売り物である。

社訓の「親孝行」はいささかスケールが大きい。「親」は両親だけでなく、先輩・上司・恩師・友人らを指す。「孝」は誠心誠意、人のために尽くすこと、「行」は自ら実行し続けることだ。
「人間大好」も一見、愚直な表現だが、お客だけでなく、社員・スタッフも取引業者も、等しく「幸福」を共有することが存在意義であり、最も大事な企業価値だという経営哲学が、そこには貫かれている。

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2. 敢えて「非効率」にこだわる人重視の経営

流通業は「時代適応業」とも言われる。かつてスーッっと現れ、パーッと消えるのがスーパーと形容された時代があったように、時流を捉え、自在に変容しないと、市場からの退出を余儀なくされる宿命にある。現下のコロナ禍も業界の再編・淘汰を加速させる要因だ。では、外食産業としていかにサステナブル(持続可能)な経営を目指すのか。

外食業界では、牛丼チェーンの価格競争のような「消耗戦」が度々繰り返された。原価を下げるために食材を変えたり、パート・アルバイト比率を高めて人件費を抑制したりといった効率主義が優先されがちだ。その結果、味も接客力も低下し、店の魅力が薄れ、リピーターも減る。そんな悪循環に陥らないビジネスモデルの構築が求められる。

実は、洋治氏には大きな反省があった。蕎麦屋「すぎのや」ののれん分けから15年目、社名を「坂東太郎」とし、和食レストランが5店舗まで増えた頃だ。「バブル期でお客は大勢来るのに、慢性的な人手不足で、従業員が辞めてしまう」ことに大いに悩んだ。夫婦で各店舗の清掃をし、早朝、母の墓前へ参った時、「働く人を幸せにしてあげなさい」という母の声が聞こえた気がした。氏はハタと膝を打ち、直接、各店の従業員に話を聞く「社長塾」をスタートする。そしてスタッフの憤懣や悩みを知り、愕然とした。忙しさに追われ、従業員のことが何も見えていなかったのだ。「従業員は家族」「人を幸福にする企業」を理念に掲げたのは、この経験が原点だ。定期的に社長自ら店舗に赴き、従業員と車座で事業計画など意見交換を行う「社長塾」は、今も「人を大切にする経営」の根幹を支えている。

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3. 店の主役は「女将さん」「花子さん」

ユニークな仕組みの1つが、和食レストランなどに2007年から導入した「女将」「花子」制度だ。
最近でこそ「女性活躍社会」が声高に叫ばれるが、この制度は店の特性、コンセプトの産物でもある。即ち、店舗の大半は、街なかの一等立地ではなく、田舎の郊外。「生活道路に面した二、三等地の店まで、わざわざ足を運んでくれる地元客が圧倒的に多い」(英将社長)。そこで、接客を切り盛りする主役を、地元のパート従業員である「女将さん」、そのサポート役の「花子さん」とした。

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キャリア形成のため転勤を伴う正社員の店長はもちろん存在するが、地域の顔はパート従業員から選出した「女将さん」「花子さん」だ。お客さんの顔も分かるし、常連客は友人同士のように名前で呼び、話し相手にもなる。そして、割烹着の意匠は、世界的デザイナー、コシノジュンコさんに依頼した。お洒落な衣装に身を包めば、「主役」意識も強まり、自ずと接客にも力が入ろうというものだ。

従業員のモチベーションを高める仕組みは、まだある。店舗を対象とした様々なコンテストとは別に、数多くの月間、年間の個人表彰制度も設けている。例えば月間なら、「笑顔がステキNo1賞」「感動ありがとうNo1賞」「女将No1賞」「花子No1賞」「料理人No1賞」「おいしいお新香No1賞」といった具合だ(ちなみに年間最優秀賞の商品は海外旅行だが、今はコロナで権利持ち越しとか)。

また、今年はコロナのため延期したが、従業員全員の一体感を高めるため、例年は大々的に事業発展計画発表会・新年会を開催。社旗入場や「幸せコール」の斉唱、おもてなしスター「BANDO 8」の歌と踊り、表彰式など、涙と熱気にあふれる一大イベントを行っている。また、厳粛に入社式も開催する。

4. 店内調理で、こだわりの味を提供

坂東太郎の最大のこだわりは、食への愛だ。名物の「味噌煮込みうどん」は本場、愛知県岡崎市の老舗の八丁味噌を使い、和食レストランで100以上あるメニューは全て店内で調理する。厨房スタッフの数は、大手ファミレスの2倍。精米も店内で行い、ぬか床で手間暇かけて作ったぬか漬けも自慢のメニューの1つだ。
「おせち」や「恵方巻」など家族向けのこだわり商品群は、店のファンを惹きつけ、底堅いテークアウト需要を生む。コロナ禍のさ中でも他店に比べて売り上げの落ち込み幅を低めに抑えられているのは、「現場で活躍したい」従業員の雇用と生き甲斐を優先する一方、坂東太郎ならではの弁当や、揚げ物などのテークアウト商品の人気に火がついたからだ。

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5. 「母の里山」構想に向けて

坂東太郎が掲げるビジョンに「母の里山」構想がある。
食材のほとんどを地元から調達し、敢えて相場より高くとも仕入れる姿勢は、自然が豊かでのどかな地域と共に発展を目指すという企業理念の表れの1つだ。
また、2020年3月には創業地の境町に、カニやしゃぶしゃぶ、ステーキなどを提供する新業態の割烹「坂東離宮」も開業した。創業45周年の節目。地元の要請にこたえた形での出店だが、「地域の食文化を守り、消えゆく割烹の役割を引き継ぐ」(洋治会長)狙いがある。

かつて日本のどこにでもあった古民家や田畑・果樹園、季節ごとの伝統行事や数々の営み。人間が自然の一部であり、自然に生かされている存在であるとの自覚が、謙虚さ、尊敬の念、感謝の気持ちを育み、人間らしさを取り戻す契機となるのでは……。
「既存の外食産業の枠を超えて、経済至上主義でない、人間らしい温かみや、人と人とのつながりを大事にし、家族の絆を強められるような環境を創造することが、我々の役割ではないか」と洋治会長は語る。
2012年5月、筑波山南麓の山荘に、日本の自然風土や伝統、地球と人類を愛し、国際感覚や教養を有する教育者、経営者、地域リーダーを育成するための「神郡(かんごおり)塾」を開講した。いわば「松下政経塾」の茨城版だが、洋治氏はさらに新たな計画を練っている。

「母の里山」構想が一歩一歩、実現に向けて動き出そうとしている。

嶋沢 裕志
ジャーナリスト
元日本経済新聞編集委員