株式会社ティーアールシィー高田 – 企業価値協会 Skip to content

株式会社ティーアールシィー高田

株式会社ティーアールシィー高田

株式会社ティーアールシィー高田
静岡県浜松市西区西山町2468
TEL: 053-485-1423
https://www.trc-takada.jp

代表取締役 髙田 修平

代表取締役 髙田 修平

2021年 認定

代表取締役 髙田 修平
創業:1958年
主たる事業:金属加工・バッテリー事業

四輪二輪向けプレス・溶接・切削部品製造のノウハウを活用し、発火・発熱・膨張に強く、穴が空き海水に浸かっても有毒ガスの発生なく正常放電するリチウム鉄リン系複合酸化物バッテリーを開発。多くの用途が見込め、我が国の蓄電能力を発展させると期待が集まり、社会から支持される特徴的価値を有すると認定。

特徴・差別点等

1. 自動車の町で60年の歴史

 公共事業の減少に悩む建設会社が大規模農業を始めたり、新型コロナウイルス感染拡大の影響で営業時間短縮を余儀なくされた居酒屋が魚の加工品販売の新事業に取り組んだり、中小企業が先行き発展する材料に乏しい業界から他の分野に目を転じ、新たな分野に活路を見いだすことは珍しくない。静岡県浜松市に本社を置く板金加工会社のティーアールシィー高田は、新しい蓄電池の開発、製造・販売という異業種に進出した。
 板金加工は鉄やステンレス、アルミ、銅などの薄い金属の板を切ったり曲げたり折ったり、溶接して形を作り上げる技術。その用途は多岐にわたっている。住宅の屋根や壁といった建材、台所の流しやロッカーなどの生活用品にも板金加工の技術が使われる。
 浜松市はご存じのように、自動車産業の城下町。自動車部品を作る板金加工の会社はたくさんある。当然、大手メーカーの下請けでも決して安泰ではなく、業界の競争は激しい。TRC高田は1957年に髙田一雄が『高田板金所』として創業した会社。1992年に『株式会社ティーアールシィー高田』として生まれ変わり、代表取締役に雄一が就任。4輪ボディーの部品やバイクのマフラーなど様々な自動車部品を作り続けてきた。鉄からステンレスに至るまで、さまざまな材質のプレス加工から溶接加工の一貫生産を得意とし、試作品の設計、開発から制作まですべての工程に対応している。特に50年余り受け継いできた溶接技術を持った職人も在籍し、自動溶接ではできない複雑な溶接も可能であることが強み。16年にマシニングセンター(穴開けや平面削りなどの加工が1台でこなせる機械)を導入し、髙田修平さん(42)が父雄一氏から3代目の代表取締役を引き継いだ。

2. 試作から量産まで一貫生産

 同社の強みは高度な溶接技術。各溶接設備の配備、自動化を進め、ほぼ全ての溶接に対応可能だ。またプレスラインを配備し、板の段階から完成品までの一貫した対応ができること。社内にて電気回路設計もできるため設備の電気設計から対応可能だ。設備部品、金型で使用する道具などの製造にも着手し、顧客企業の幅広いニーズに対応している。

 板金加工業界の現状は厳しい。自動車部品関連業界の競争が激化するなか、高田は「内製化」の差別化戦略に力を入れる。プレスの金型や溶接で使う道具なども自社で作る内製化は、顧客の企業にとってもコスト削減のメリットがあり、間違いなく強みになる。
 2012年にISO9001:2008 を認証取得した。これを取得したからといって仕事が増えるわけでもなければ法的な問題があるわけでもないが、顧客に対して技術力の高さがアピールできる。この認証を取得したことで社内的な従業員の意識が変化したことも大きい。「当社の場合は活動を始めてすぐに5Sの徹底、作業区分や表示の改善など、現場に反応がありました。環境が変わると、製品に対する意識も変わる、そういった相乗効果のなかで活動が進んだと思います。以前に比べ現場のレベルが格段に上がったと実感しています」「安全」、「品質」、「コスト」にはゴールはない。髙田社長は今後「それらの問題を追求し、全社員が成長するためのツールとしてISOを活用していきたい」と話す。

四輪ボディ部品
四輪ボディ部品

3. 『心ある企業』を経営理念に

 ティーアールシィー高田のマークは人と人が支え合うかたちをイメージしたもの。髙田社長は代表取締役に就任後、先代から会社の歴史いついて話を聞いたり先々代の足跡が書かれた資料に目を通して『心ある企業』という経営理念を明確にした。「心ある企業」とは、一つは「支えあう心」を持ち、人と人の輪を大切にし、心ある商品」を根底において価値ある商品を生み出すこと、お客様には真心を持って接し、信頼を深めていくことだという。

株式会社ティーアールシィー高田

「これを一つの理念として、それぞれ従業員がプロフェッショナルとして、お客さんが感動するようなものづくりをやっていこうということです」
 髙田社長は性別、年齢、役職にとらわれることのない職場づくりを心掛けている。従業員一人ひとりのスキルマップを作成し、そのスキルに応じた能力給を支給したり教育方法の仕組みを確立するなど、従業員のモチベーションを高めるための人事戦略を採っている。「全員が技術的に向上し、会社の経営に参加するという体系にしていきたいなと思っています。どの項目、スキルを伸ばしていけばいいか、ものづくりの面白さを楽しみながら、受け身になるのでは無く自律的に学んでいける場を作っていくことが大事かなと」
 輸送機器部品や自動車、オートバイ、部品の溶接、ロボットのオペレーター作業などが主な仕事だが、競争は激しいが、各種金属製品プレス・溶接・表面処理(一貫生産)、事業は多岐にわたり需要が高く、新型コロナウイルスの影響も受けにくいのが特長。

 給与体系は「福利厚生が自慢」というだけあって、きめ細かい。昨年からポイント制を導入し、上位獲得者には臨時ボーナスを支給。資格を取得するための支援制度もある。従業員の定年までの将来的な目標を設定し、会社と従業員の目標を常にシンクロさせているため、従業員 1 人 1 人の定年までの目標や年収を設定している。
 高田は従業員を採用したときに社長が家族の家に赴き、業務内容の説明をする。社長が入社時に家庭を訪問する会社は珍しい。従業員を大切にしたいという姿勢の表れだろう。

部品の溶接
部品の溶接
ロボットのオペレーター作業
ロボットのオペレーター作業

4. 生き残りを賭けた新事業

 世界的に自動車業界はEV(電気自動車)車の開発に躍起となっている。自動車がガソリン車から部品数の少ないEVに切り替わると、当然部品メーカーは減少し、そこで働く人たちの雇用は失われる。約30万人の雇用が失われるという厳しい見方もある。
 そこでティーアールシィー高田が取り組みを始めたのが、次世代バッテリー事業。これまで蓄積してきた金属加工の技術を基に、新時代のバッテリー需要に挑戦。すでにこの分野では実績のある台湾の「チャンホンエナジー」と19年に提携し、日本でバッテリーの製造が可能となった。

 今回ティーアールシィー高田が売り出そうとしているのは、リチウム鉄リン系複合酸化物を使った全く新しい電池。通常リチウムイオン電池は穴を空けたりキズをつけると発火・爆発するとともに、海水につけると有毒ガスが発生するが、今回高田が開発したバッテリーは原材料に有機系化合物を使用していないため、穴が空いても爆発・発火もしない上に、穴が空いた状態で海水につけても有毒ガスは発生せず、蓄電能力を維持することができるという優れもの。
 もう一つは自己放電率が低いという特徴がある。自己放電率は年間3%以下で、蓄電池として長く高品質を保つ。いざ使いたいときに使えるという利点があるため、台湾では、潜水艦やバス、船、バイク、家庭用蓄電池、ドローンなど多くの製品に使用されている。
 板金加工業をメインの仕事にしてきたティーアールシィー高田にとって、蓄電池の開発はまさに異業種への進出だ。新事業のバッテリーの製造、販売への着手に伴って昨年10月2日、浜松市西区に新工場(伊左地町3441)を開設、製品の研究開発、生産を促進する体制を整えた。
 「巷間EVがいろいろ言われるようになって、2018年から調査を開始。翌年にバッテリーを作っているメーカーさんと契約を結ばせてもらいました」こうした異業種に参入するのだから、当然それなりの人材はいるはずと思いきや髙田社長は「金属加工に特化した会社で、電池に関する知識は一切なかった」と苦笑。
 「2019年の夏頃、ある電池メーカーが希望退職者を募集した。技術者を何人か受け入れて、その方を中心に開発を進めていった。その方々は新たな活躍の場ができるし、うちは年代が若い人が多く、そういう若い従業員を指導してもらえる。一石二鳥でした」
 他社の人員削減をきっかけに、新製品の開発を進め、さらに現場の体制を強化することができた。髙田社長の決断が奏功したということだろう。

リチウム鉄リン系複合酸化物
リチウム鉄リン系複合酸化物
燃えないバッテリー「TRC」
燃えないバッテリー「TRC」

 髙田社長は、自動車だけに頼るつもりはないと言い切る。自動車メーカーの仕事は注文が多く数量が出て売り上げ的には安定はするが、一方ではコストを削減し価格を安くしてほしいと要求されることが多く、自動車業界に頼るといままでのような下請けになってしまう。逆に、大手メーカーに頼らず自社で開発した独自の商品で勝負したほうがいいのではないかと考えた。幸い高田には試作品から開発をしてきた実績と経験がある。
 この次世代バッテリーは、どんな市場を想定しているのか。バッテリー事業は防災関係、家庭用蓄電池代理店または一般ユーザー、電動製品を開発しているメーカーが販売対象。「うちは営業があまりうまくないので。20年1月に、AMITE(アミテ)という販売会社を作った。そこから発信して、うちはあくまでもメーカーとして特化していく」
 今後はAMITEを総代理店として、順次販売網を拡大し、高田はモノづくり会社としてバッテリーの開発・生産に専念する。21年1月より日本で代理店の募集も始めた。
 経産省・資源エネルギー庁は、南海トラフ巨大地震が発生すれば東京湾に集中している火力発電所は全滅する恐れがあるだろうと警告を発している。地震発生の恐れがある地域に安全で長寿命な防災用バッテリーが普及すれば、万が一災害が発生して停電になっても、電気が遮断されないため多くの被災者の生活を支援することができる。災害時の電源として、高田は災害用に特化した独自の製品を開発、4月から販売を開始する予定。
 問題は今後の経営戦略。事業の3本柱は車体部品に新事業のバッテリー、もう一つの柱は装置の生産販売。浜松にはモノづくりを支える中小企業が多い。様々な分野の製造業が狭い範囲に集約しており、そうした地域の特徴を活かした装置、ロボットの量産化だ。
「いままでは自動車部品を作るロボットの装置を外部から購入してやっていたんですが、それを社内で全部作るようにした。そしたらお客さんが、その装置をうちにも欲しいと言い出しまして、いま量産できる体制を整えている。部品メーカーは使い勝手が悪いものを使っていることがよくありますが、うちは量産のことをよく知っているので、作業者の目線になっていろんな装置を作ることができる。これからその販売も始めます」
 髙田社長の夢は、「いろんなかたちで地元浜松に恩返しをして、全ての従業員がものづくりを楽しめるような企業にする」ことだ。事業を通じて、取引先の人たちや従業員全員を幸せにする。それがティーアールシィー高田の将来ビジョンであり、最大の目標でもある。

大宮 知信
ジャーナリスト